第13話 真夜中の買い食い
「良いなぁ~」
なんてことのないテレビ番組の、なんてことのないランキングコーナー。
幅広い年代が対象の、最近良く買い食いするのはどんな食べ物が多いのかというのを視聴中、羨ましそうに澪歌はテレビを見たまま呟くように言葉を吐いた。
「ねぇ優君。私もああいうのしたいな」
「あー、うん。どうしよっか」
澪歌の言ってる事は分かるよ。
自炊か出前、それか出先で出来合いの惣菜や弁当とか買って帰るってのばかりで、澪歌が言ってる店で買った食品をそのまま外で食べるなんてのはした事がなかったしな。
でもやっぱりまだ厳しくないか?
今では外で離れても一分近くは消えなくなったけど、それだけあれば大丈夫だとは思いたいけど、せめて昼間出歩くなら三分ぐらいは消えないでほしいもの。
それでも澪歌がやってみたいというなら試してみるのもいいかもな。
といっても時間は万が一を考えてやっぱり深夜になるだろうけど。
「深夜ならやってみてもいいかな」
「ほんとに!? …あ、でも深夜ってお店やってないんじゃ」
「いやほら、コンビニなら開いてるぞ。昼間出歩くのはまだちょっと怖いから。昼間はもうちょい外で消えないようになってからでお願いしたい。――駄目かな?」
「んー、じゃあいつか。いつかもっと外で優君と離れても大丈夫になったら、ああいう場所にも連れていってね」
「それはもちろん。――さて、今回のは日付が変わってからで良いか?」
「うん。どこのコンビニにするの? 前に私と近くまで行ったところ?」
「そうだな。そこが一番近いしそこにしよう」
「折角だし晩御飯は抜いていこっと」
あそこのコンビニは繁盛してるし、深夜でも商品は充実してるだろ。
にしても晩飯抜いていくってどれだけ買うつもりなんだか。
財政面ではもう結構余裕出来たから問題はないけど、食いきれるのか心配だ。一応俺も晩飯抜いていくか。
「~♪」
ったく、楽しそうに鼻歌混じりでコンビニのサイト見てそんなに楽しみなのか。
――俺も見とこっかな。何かセールやってたり、旨そうな新商品があるかもしれないし。
「よーし、準備はいいか?」
「うん。私は大丈夫だよ」
財布は良し! 中身も諭吉さんあるしこれなら大丈夫。
カバンも持ったし俺の方も大丈夫だな。
「じゃあ行こうか」
「うん!」
日中と違い、既に日付が代わり街灯が心許なく灯る道路。
この時間帯に歩くのはもう慣れたものだが、今回はいつもと事情が違う。
「良いか? 俺もするけど、離れたらちゃんと秒数数えて余裕を持って戻って来るように。その時、服でもいいから俺に触るのも忘れるなよ」
「だいじょーぶだよ。ちゃんと分かってるから」
俺の右手をひんやりと冷たい手であれこれと遊びながら澪歌は答えるものの、一抹の不安が消え去る事はなかった。
というのも一回だけだが最悪な出来事があって。
夜中の散歩中、読み違えたのか澪歌がいきなり消えてしまった事がある。
消えること事態は今まで何回もあったからそれは別に良いが、その日はもう慣れてきた事もあっていつもとは違う格好、通販で購入した服を着た澪歌と散歩をしていた。
そして澪歌が消えた瞬間、いつもと違う事に気付いた。
いつもだったら澪歌が消えた後には何も残らないのだが、今回は澪歌が着ていた衣服だけがその場に残されていた。
どうやら幽霊として出てきた時に身に付けていた物は本体が消える時、一緒に無くなるが、別に買った物はそうはならないらしい。
澪歌が買って凄く機嫌良く着ていたやつだし、そのまま放っておくわけにもいかない。
といってもその日、そんな警戒してなかったから服を入れれるカバンや袋なんて持ってきてなかった。
仕方なく両手で抱えて急ぎ足で帰ろうとしたけど、そんな時に悪い事は重なるもので、パトロール中だった警察官に見つかって職務質問を受ける羽目に。
気持ちは分かるよ、良く分かる。
深夜に男が一人、それも女性用の衣服を両手に抱えて状態なんだ。
誰がどう見ても不審者そのもの。もし逆の立場だったら俺も同じ事してたろうよ。
その場は何とか、「女装が趣味なんです! 目的地に着いてから着替えるのが私のやり方なんです! 何か問題がありますか!?」と謎の圧を放ちながら説明したら、警察官ドン引きしながらも何とか解放されたけど。
あれ以来、同じ目に会わないようカバンは必ず持っていくようになったんだよな。
信号待ちの途中、多少の車が通りすぎていくその向こう側、周辺の闇をかき消すごとく煌々と光を放つ目的のコンビニがあった。
店の場所が良いのか、この時間帯でも駐車スペースには何台もの車が停まっており、ここからでも繁盛しているのが良く分かる。
この時間帯でこれだと、ある程度商品もちゃんと置いてあるだろう。
来客を知らせる機械音が店内に響いたかと思えば、澪歌は買い物かごを持って瞬く間に奥へ消えていった。
「これとこれとこれとこれ。――あっ、あれも美味しそう!」
値段も確認せずにポンポンとかごに商品を入れていく。
中にはおにぎり、サンドイッチをはじめ、弁当やデザート、お菓子にアイスクリームまで。これでもかと商品を入れたかごはあっという間に入りきらない位パンパンになっていた。
「優君。優君は何か食べたいのある?」
「いやー、流石にその量一人じゃ食べきれんだろうし、その中で余ったの食べるわ」
「ん。それじゃあお会計にしよっか」
なんて言いながらも会計の最中、レジの横に並べられているチキンやフランクフルトなどに目が奪われたらしく、それらも幾つか追加で注文していた。
「あざっしたー」
店員のやる気のない声を背にコンビニを後に。
来た時と違って商品が入った大きな袋が俺と澪歌、それぞれが手に持っていた。
「ねぇねぇ、どこで食べよっか」
「そうだな。――……少し歩くけど河川敷にでも行くか。こんな時間だしそこなら他に人は居ないだろ」
「うん。それじゃあ行こう」
食べる場所は決まって、俺と澪歌は来た道を戻って河川敷を目指して歩いていった。
たまに聞こえる車の音も随分と遠くなり、二人の話し声と足音、歩く時の振動で袋の中にある商品が揺れる音だけが周囲に響く。
幾つかに分かれた短い階段をのぼると一気に視界が広がった。
遠くに流れる幅の狭い川、向こう岸と繋がる大きな橋。
テニスコートや野球とサッカーのグラウンドもあり、辺りに光源は無く、遠くに見えるビル群の仄かな光がどこか非日常感を感じさせる。
「えーっと、あったあった。どうせならあそこで食べよう」
「うん。もう少しだね」
眼下に広がる空間の一角、そこには通常子供の保護者などが憩いの場所として集まっているであろう東屋があった。
「よっこいしょっと。しっかしほんとに沢山買ったな」
大きな袋で二つ分。ほんとによく食べ物や飲み物だけでこれだけ買ったもんだ。
コンビニの会計で五千円でも足りなかったのなんて公共料金ぐらいだったのに。
「どれもこれも美味しそうだったからつい。それにしても、外で食べるのってなんだかワクワクするね!」
「それはそうだな」
こんな時間に外で買い食いするなんて俺にとっても初めてだな。
働いていた頃だったら家で爆睡してる時間だったろうし。
にしても美味そうに食うな。――っと、いかん。俺も腹の虫が鳴ってしまった。
それじゃ、俺も遅い晩飯をいただくとしようか。
どっぷりと夜も更け、虫も寝静まった中、東屋にある二人の時間はゆっくりと過ぎていった。
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