第9話 対戦ゲーム実況
「色んなの買って来たね」
澪歌は俺が買ってきたソフトを一つ一つ手に取ると興味深そうな顔で見ていた。
「まぁな。何かやりたいのとかあるか?」
「う~ん、――あ、このシリーズならやったことあるよ」
そう言ってずいっと差し出したのは世界的に有名な対戦アクションゲームだった。
対戦アクションといってもいわゆる格ゲームとは違って、相手のライフをゼロにすれば勝ちというものではなく、互いにゼロパーセントから始まるそれを攻撃して相手のを貯めていき、ステージの外へぶっ飛ばせば勝利というもの。
何世代も前のゲーム機の時代にシリーズが始まり、最初からこの最新作に至るまで全てのシリーズが数百万本売れていて、世界大会も開かれる程の人気ぶり。
俺はもちろんあんまりこういった物に詳しくなさそうな澪歌ですらやった事あるし、少しでもゲームした経験がある人ならこのシリーズはまず知っているだろう。
しかも今まで一度の対戦で最大4人まで戦えたが、今作ではその倍の8人まで対戦可能となっているみたいで、アイテム有りでやろうものならより一層ハチャメチャな戦闘画面になるのは必至。
「お、じゃあそれにするか。最初から動画撮っても良いか?」
「良いよー」
テレビとゲーム機の準備を終え、動画用にと早速カメラもテレビ画面と俺達を撮れるようにそれぞれセッティングする。
ゲーム機の電源を入れると真っ暗だったテレビ画面が一転、ゲーム会社のロゴ等が現れ、壮大な音楽と共にOPが始まったと同時に澪歌に小声で囁く。
「一応初回だからOPが終わるまでこれで」
人差し指を口の前に立て話さないように頼むと、澪歌もコクコクと首を縦に降って応えた。
最新ゲーム機なだけあって映像も綺麗になり、演出や新キャラクターなのだろうか、見た事のないキャラも次々に登場し、否応なしにテンションが上がってくるのが自覚出来る。
数分間でOPは終了し、タイトル画面に移り変わったが、OPの出来は個人的に今までで一番の出来だったのではないかと思った。
「いやぁ~、良いOPだった。あ、どうも皆さん、優です」
軽く自己紹介をし、澪歌も続くように視線を送ると、OPの出来がよっぽど気に入ったのか小さく拍手をしていた。
「澪歌、ちょっと、澪歌さん?」
問いかけるような声にやっと戻ってきたのか反応を示した。
「え、あ、もう始まってる?」
「始まってる、けど。んー、take2いこうか」
ここはカット、――いや、このまま使っても良いかな。
「どうも皆さん、優です」
「えっと、澪歌です」
「――って事で今日は皆も知ってるこのゲームで遊んでいくんだけど。澪歌はこのシリーズやったことは?」
「最初の方のシリーズなら少しだけ。あんまり上手くはなかったけど」
「そっか。俺もそれなりだし取りあえず操作方法でも――って、最近は紙の説明書入ってないんだよな」
「――えっ、そうなんだ。そもそももう説明書が無くなったの?」
「いや最近は、電子だったりこれの場合は、――こんな感じになってる」
そう言ってこのゲームの公式サイトが表示されたスマホを澪歌に渡す。
「へぇ~、凄いねぇ」
「俺が子供の頃は紙の説明書が当たり前で、ソフトを開封してから遊ぶより先に説明書読んで期待感とか高めてて、そのゲームの世界観やキャラクターとかにワクワクしながら読んでたもんだ」
ほんとに懐かしい。なんならゲームソフトによるが、説明書読んでたその時間が一番楽しかったやつまであったしな。
あれは肝心のゲーム自体が残念な出来だったけど。
「私はあんまりした事無いけど、そう考えると時代だねぇ。何か凄い時の流れを感じるね」
「だな。…それで、操作方法とかもう分かった?」
聞くと自信無さげに澪歌は首をかしげ、
「う~ん、色々出来る事増えてるし見ながらやっても良い?」
「そうだな。俺も最新作は今日が初めてだし、俺もちょくちょく見るし、――それじゃ早速やってみるか」
長らく表示されていたタイトル画面を進み、対戦モードに入る。
すると、数十を越える様々なキャラクター達を選択する画面へと変わった。
「はぁ~、いきなりこんなに選べるか。下手したらこれだけで前作のキャラ数越えてないかこれ」
「確かまだ隠しキャラクターも居るんだよね?」
「そのはず。いや、それにしても凄い。こんな居るとどれにするか迷うな」
シリーズ最初期から出ているキャラは勿論、次作以降に出てきた懐かしいキャラ達に加え、今回が初参戦のキャラもちらほら。
どれもこれも知名度のある作品のキャラ達ばかりで、俺の思い入れのある作品からも参戦していた。
「んー、先ずはこれでいこ」
俺が選んだのは緑のフードと衣服を身に付け、剣と盾を持った剣士。
一見近距離が得意そうだが、多彩な道具も使い遠距離戦も対応出来る万能キャラだ。
このキャラのゲームの歴史も長く、俺が生まれる前からシリーズが続いて、少し前に出た最新作は歴代最高作との呼び声も高いらしい。
動画撮るかは別にして、いずれそれも遊んでみたいものだ。
「私は、――このおじさんにしよ」
澪歌が選択したのは少し肥満気味に腹が出て立派な口ひげを蓄えた中年男性。
ゲーム界においては恐らく最も知名度が高い配管工を生業とするキャラクター。
こっちも俺の生前からシリーズがで続けており、大体大ヒットを記録している化け物コンテンツ。
「ルールはストック2、ステージとアイテムはランダムで良いか?」
「うん、最初は練習するから来ないでね」
「分かってるって」
選ばれたステージは空中に足場がいくつかあるステージ。一見何の変哲もないように見えるが、
「澪歌、気を付けろよ。ここいきなりステージ変わって何か指示出たりするから」
「えっ、そうなんだ。ありがとう、気を付けるね」
スマホに表示されている説明画面とテレビを交互に見ながら驚いたように声を上げる。
ルールはストック2なので、それぞれふたつあるが先に相手の残機をゼロにした方が勝利となる。
が、そんな事はお構い無しにお互いスマホを見ながら練習をしていた。
「大体理解出来たかな。――澪歌は?」
前作もやったお陰が結構すんなり動かせるようになった。
にしても、付属してるコントローラーちょっと小さくない?
ボタンの配置はともかく、少し動かしにくいって。
違う種類や古い機種のコントローラーも使えるようだし、それも視野に入れといた方が良いな。
「うーん、私も少しは出来るようになったかな? ――って、あっ!?」
「――あっ」
スマホをチラチラ見ながら澪歌は返事をしたが、その僅かな間にステージのギミックが変化し、さっきまで足場があった場所が消え、反応が遅れた澪歌のキャラは復帰が間に合わず残機を一つ減らしてしまった。
ほんの些細な油断でやられるのが怖いところではあるが、
「――……あー、ごめん。慣れるまでは変化しないステージにしよか」
「…うん。ごめんね」
目に見えてしょんぼりとした澪歌に勝負を続行するのも気が引け、仕切り直しをすることに。
その後はギミックが無いステージで戦い、勝ったり負けたり、負けるつもりはなかったがアイテムで大逆転されたりと動画映えする場面もありながら遊んでいた。
やっぱり結構実力差があるな。
まぁ、澪歌はシリーズの最初の方しかやってなかったみたいだし仕方ないけど。
アイテム有りだと少しの加減で良い勝負になるし、この調子でやってこう。
にしても、トドメと思ってスマッシュ攻撃した瞬間に爆弾が目の前に出てきたのは思わず声が出たな。
勝ったと確信した瞬間、爆弾に攻撃当たってそのまま場外。あんなの避けれるわけ無いし。
まぁお陰で動画映えするのは撮れたからそこは絶対使うけど。
「優君優君」
「ん? どした?」
「次はお互い本気でやってみない?」
「いや、まぁ、俺はいいけど。――その顔、何か策があるみたいだな」
「それは対戦してのお楽しみということで」
「OK、じゃあやってみるか」
本気という事でギミック無しのステージ、アイテムも出現しないルールで対戦を始めたものの、ダメージを50%も食らわない内に澪歌の残機を減らし後がない状況に。
「このままじゃ秘策とやらを使わないまま終わるぞ――っと」
少し話した隙を突かれ操作しているキャラクターがステージの外へ飛ばされる。
といってもまだそこまでダメージが蓄積されていないので何も問題は無い。
澪歌はメテオどころかステージの外に追いかける様子も無く復帰も復帰用の技を使えば楽に出来る距離。
「――…ん? あれっ!? ちょっと!?」
空中ジャンプこそ出来たものの、復帰用の技は出ず、何度も何度も入力してもキャラに変化は起こらず、そのまま奈落の底へ消えて行った。
え、壊れた? いやいや、今日買ったばかりで壊れてたまるか!
初期不良って可能性も無くはないけど、一番可能性が高いのは――。
「澪歌、何かやったろ?」
いつの間にか再び動けるようになったキャラを操作しつつ聞いてみるが、
「種明かしは後でするね」
と流されそれからも度々、操作を受け付けなくなる場面が起こり、惜しいところで澪歌に負けてしまった。
「――こんなの勝てるか」
リザルト画面を満足そうに眺める澪歌とは対照的に俺はガックリと肩を落とす。
「で、何をどうやったんだ?」
「ちょっと優君が使ってるコントローラーの通信を遮断したの。でももっと楽に勝てると思ったんだけど、強いね優君」
「通信の切断って、そんな事出来るとかズルすぎるだろ」
「でもでも、これなら世界大会も優勝出来そうじゃない?」
「そんなの反則で一発退場だろうよ」
「そう、なんだ。良い考えだと思ったんだけどなあ」
分かりやすく澪歌はしょんぼりと肩を落とす。
こんなの少し考えたら駄目って分かりそうなものだけど、澪歌にとってはほんとに妙案だったのだろう。
といっても、別に大会なんて出なくても動画や配信でした方が話題になりそうで良くないか?
「俺や視聴者と遊ぶ分にはあんまり問題にならないだろうけど」
「――またやって良いの?」
「ほどほどに頼むぞ」
「うんっ!」
その後はスマホで調べつつ、隠しキャラを出すべく二人してまだまだ遊んでいた。
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