第3話 協力関係成立
――コイツいつから居やがった!? リビングのカメラ確認の時は見えなかったし少なくともそれ以降か。
え、じゃああれか。もしかして俺が確認作業してる間ずっと居てたとか? 十分ありえるな。
一回落ち着こう、…………ふぅ、よし。そもそもあれだろ? 画面にはこうして映っているけど、振り返れば何も居ないっていう心霊あるあるだろ。そうだ、そうに違いない、俺は詳しいんだ。
高鳴る鼓動を押さえるべく自分に暗示をかけるようにそう言い聞かせ、意を決し一気に振り向いた。
居たよ、居やがった。
白いワンピースに顔が見えないほど伸びた髪、それに埋もれながらも圧倒的な主張をする二つの物体。
間違いなくカメラに映ってたヤツだ。
しっかし、こうも頭から足の先まではっきり見えるとか、とても幽霊とは思えない。それにいくら寝ぼけてたとはいえ、あんな事をしても出来ただろうに無理矢理ひっぺがすとかも無かったし、もしかしたら直接的な害意とかは持ってないかもしれない。……とにかくちょっと反応見てみるか。
「……こ、こんにちは?」
幽霊は自身の事とは思ってなかったらしく、キョロキョロ辺りを見回し他に誰も居ないのを確かめると自身を指差し、
『みえ、てるの?』
「もちろん。ばっちりと」
それに対する返事は無く、代わりに真っ白な二本の腕が伸び俺の頬を優しく引っ張った。
『さ、触れる。まだ日が出てるのに』
あ、そこはかとなく良い香りする。にしても良くほっぺた引っ張るねこの子。いや、痛くないから別に良いけどさ。敵意や殺意もないっぽいし、悪い霊じゃないのか? ――ちょっと話を進める為にもいい加減ほっぺた解放してもらわんと。
「しょろしょろ手ぇ、はにゃしてもらへる?」
お願いする形で促すと頬にあった感触は離れ、我に返ったのか仕切り直すように小さな咳払いを一つし、幽霊っぽい声色で口を開く。
『で、出ていけ~、さもないと怖いぞ~』
可愛い、てか怖いぞってどんな脅しだよ。テレビが消えた直後だったらかなり効果あったろうけど、人のほっぺたを楽しそうにいじった後にそんな凄まれても全く恐怖心なんてわいてこねぇよ。
「自分の部屋なのに出ていく必要はないだろ。そもそも君、本当に幽霊? ただの不審者じゃないの?」
寧ろ気配も物音一つ立てず背後に立つ不審者の方が怖いまであるけど。
『……まだ信じてないんだ。良いよ、じゃあ実際に体験させてあげる。手を出して?』
「ん、痛いのは無しでよろしくな」
俺の手を両手で包むように握ったかと思えば、体が体重が無くなった感覚が襲い、一気に軽くなった。
フワフワと浮いているのだ。宇宙飛行士が無重力空間でなっているのと同じ状況になっている。回りを見ると俺だけじゃなく本やカメラ、重い家具にいたるまで宙に浮いていた。
『……どう? これでも信じない?』
「オーケー、信じる、信じるからゆっくり戻して。特にカメラは大事なものだから頼む」
フッ、と重くなったかと思った途端、再び体がソファーに沈む。見回すとカメラや他の家具達も元通りになったようだ。
しっかし凄いなこの子! これは一気に勝算が上がったろ。当初のホラー路線もいけるし、今回の超能力じみた事やもっと違うジャンル、例えばゲーム実況で幽霊にホラーゲームやってもらったとかでも需要が見込めそうじゃない? ――これはなんとしてでも協力してもらわねば。
『……これで出ていく気になった?』
「いや、かけらも」
『怖くないの?』
「うーん、こうやってちゃんと会話も出来るしあんまり。それ以前にそもそも引っ越すだけの金も無いからな!」
『……えぇ。……そーいえば昨日言ってたけど、お仕事辞めたってほんとなの?』
うなずくと幽霊は呆れたようにため息をついた。
『……はぁ。お金が無いのにこんなカメラとかいっぱい買ってどうするの。こんなんじゃ引っ越すどころかその内餓死するんじゃないの』
「そうならない為にも一つ、是非とも協力してほしい事があって」
『何? ろくでもないような事の気がするけど聞くだけ聞いてあげる』
「幽霊の君やこの部屋で起こった心霊現象を動画に録って投稿したいんだ」
『動画ねぇ。何とかってところに投稿するしたらそれでお金稼げるんだ?』
「YouTubeってサイトな。金稼ぐにも一定の条件達成しないと駄目なんだけど、君とならそれもあっという間にいけるだろうし」
『ふ~ん、そっちのメリットは分かったけど、もし上手くいったら私に何かくれるのかな』
「そりゃあもちろん。美味い物だったり、綺麗な服や欲しい物はだいたい用意出来ると思う。旅行とかも良いなぁ」
『旅行かぁ。私地縛霊みたいだからこの部屋から出たことないんだけど大丈夫かなぁ?』
「あー、それは、……どうなんだろう。……案外出ようとしたら出れるかもしれんし、それが駄目でも外に出る時は俺に取り憑く、みたいな事って出来るか?」
『――……そういえばそんな事、考えた事もなかった』
「じゃあ可能性はゼロじゃないな。もちろん最初は上手く行かないだろうけど、出来るようになったら一気に行動範囲広がるな」
『そう、だね。ちょっと練習してみよっかな』
「お。という事は、協力してくれるって事で良いのかな?」
『…………どうせ出ていかないみたいだし、それに良い暇潰しにもなりそうだから付き合ってあげる』
「ほんとか!? ありがとう、マジで助かるわ。俺は
『
「澪歌か、良い名前だ。――! そうだ! 優と澪歌でゆうれいコンビでやっていこかな」
『それは流石にちょっと安直過ぎない?』
「こーいうのは分かりやすい方が良いんだって」
何とか協力も取り付けたし、これからは心霊現象にビクビクする事も無くやってけそうだ。取り敢えず寝室の分とこのやり取り投稿するとして、後は何からやろっかな? 色々ネタが思い付いてたまらんわ、どれやってもバズりそうだし、これから楽しくなりそうだ。
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