第4話妻の行きたかった場所
亡き妻は心の病を抱えていて、引きこもり状態だった。
引きこもりなのに、浪費家で、昔の法律用語でいうところの「準禁治産者」であった。
スマホが普及したことで、ネット通販サイトでいろんな服を買いあさるようになった。
全然着る気もないのに。
僕は経営者から手渡しでもらう20万円以上の給料をすべて妻に手渡しで渡していた。
それは全部妻の財布に入れられ、妻が管理していた。
準禁治産者なのだから、そんな人に渡すこと自体ダメなことはわかっていた。
しかし断るとDVがあったのだ。
過半数は男から女なのだが、僕らは少数派である。
僕から妻に積極的に暴力をふるったことはない。
妻のお気に入りの服のほとんどは「渋谷109」の店舗に注文していた。
スマホの画面をタッチ、または電話で。
1着1000円ではない。
もっとも本人は価格など見ない。
自分の欲しい服があれば、それを選んでるだけである。
人に対しては金に細かい割には、自分が使うときはただざっくりとしている。
給料後は、毎日宅配便で「SHIBUYA109」の大量の段ボール。
そして、決して開けることはしない。
妻はいずれは、実際の店舗へと行きたかったようである。
しかし一度体を部屋の中に閉じ込めてしまった人は、なかなか遠出は出来ない。
人は死んでしまったら、どうでも良いと思える僕としても、妻が行きたかった渋谷109を渋谷スクランブル交差点から見上げた時、胸に手を当て、妻を思いながら、これからパパ活大人19歳の女の子に会いに行くというのは、クズ男なのだろうか。
妻はこの世にはいない。
許してくれとは言わない。
多少の後ろめたさだけであろうか。
妻が行きたかった場所、妻が通販で頼んでいた場所の渋谷109で、僕は妻を思い、胸に手を当て、心の中で
(ここが109だよ)
とささやいていた。
僕も都合のいい男ということがわかると思う。
勝手に頭や心の中で、亡き妻を利用しているだけである。
そして、ひとつ済んだら、妻はなかったことにして、若い女の子に気持ちを切り替えるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます