第2話クズ男
妻は自宅で死んだため、病院で検死の後、警察に運ばれた。
僕は一人病院から帰ってきて、ずっと狂ったように鳴き叫ぶ2匹の犬を風呂場から出し、部屋に戻すと、妻の死んでいた布団の上を鼻をつけて嗅ぎ、主はどこへ行ったのというような吠え方をしていた。
「寂しいよ(悲)早く帰ってきて」
愛犬のうち1匹は、妻がペットショップから買ってきて一番かわいがっていた犬で、妻に常にべったり。
血統書付きの雌のマルチーズで、ペットショップに並んでいたのだが、全然人に慣れず、買い手がつかなかったが、妻を見るとすごく興味を出して、店員も含めて、普通の人は抱くとすぐ暴れるのに、妻にだけは逃げない。
これはペットショップの店員もびっくりしていたくらい褒めていた。
1回目は買わなかったが、2回、3回と通って買うことにしたようだ。
実はこの犬は、ケージの中が大嫌いで、暴れたり、吠えたり、糞尿もすごく、ペットショップから見たら厄介な犬だったようだ。
確かに他の犬を見るとそんな子はいなそうだ。
だいたいが、ぐっすり寝ている。
この犬のところだけが、休息のない家になっていたのであろうか。
妻がその犬の前に近づくと、その犬も妻をずっと目で追い、普段の敵意のある吠え方ではなく、かまってほしいという吠え方になっていた。
妻に抱かれると、おとなしくなり、またケージに戻すと、帰らないでという吠え方をしていたようなのである。
最初から妻と犬の意思疎通があった感じがする。
この犬も妻を待っていたのだろう。
「私はこの人に飼われたいんだ」
妻はその犬に「チロ」と名を付けた。
白くて小さいから。
妻は献身的に育てた。
最初は僕には吠えて、すぐは慣れなかったが、妻の夫と判断したのだろう、そのうちに指でつまんだ餌くらいは食べてくれるようになった。
それでも、最期まで妻以上には慣れ親しめることはできなかったと思う。
その飼い主である妻がいないので、犬は吠え続けていたのだが、それも疲れたのか妻が死んだ場所で2匹一緒に丸くなって眠りについてしまった。
とりあえず、妻のにおいがあるからなのであろう。
ただ、僕はその傍らで何をしていたかというと、スマホで2ショットチャットとやっていた。
妻が死んでしまったことを悲しんでいるのではなく、新しい出会いだけを求めていたのである。
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