第54話 どんな手段を使っても。

 あたしの中にある内なる世界。


 この内なる世界のそのまた中に、幾多の世界が生まれては消えていく。


 ほんの少しの因果のかけ違いから世界が分かれ、また重なっていくこともあるし。


 生まれては消えて、消えては生まれて。


 別れてはまた融合して、そして再び別れていく。


 くっついては離れてまたくっつく、儚い泡のような存在。それが世界、宇宙。


 人の営みなんてそのうちのほんの一瞬の話なのに。


 それでもその人の心からもまた新しい泡が生まれるのだ。


 この世に産まれいづるあまたの命。その命に生まれる心。


 その心ひとつひとつもまた、世界と同じ、泡なのだ。




 だから、あたしの中のそのまた中のそん世界がすこしくらい因果を掛け違えたとしても、それでどうにかなってしまうようなものでもない。


 でも。



 ああ。


 やっぱりこれは、あたしのわがまま、だ。


 あたしの感情がそれを許せないのだ。




 だから。


 ごめんなさいラギのセリーヌ。


 あなたには、やっぱり一度アリシアの中に還ってもらわなきゃならない。


 ごめん、ラギ……。





 そんな風にぐだぐだ考えながらあたしは再び時を超えた。



 あの事故から五年後の世界。


 セリーヌの中に。



 彼女のインナースペースに潜り込み、あたしは……。


「困ったことになりました……」


 そう、彼女に告げることにしたのだった。




「どうなさったのですか?」


 インナースペースの中、ラギのセリーヌは睡眠中のこのタイミング。


 たぶん、夢を見ているようなそんな感じでいる。


 あたしはたぶん、ちょっと困った顔になってるかな。ふにゃぁだけど。


「ごめんなさいセリーヌ。あなたには大事なことをまだ話していないの。でもあなたの人生にとってものすごく大事なことなんだけど、ね……」


 そんなふうに彼女に話す。


「もう、はっきり言ってください。何があったんですか?」


 ああ、周りくどいかな……。ごめん……。


「ごめんなさい。貴女の心は実は別の世界にいるアリシアっていう女性と繋がっているんです。彼女がコールドスリープ中に心だけ貴女の中に居る、そう思って貰えばわかりやすい、かな?」


「貴女の人生が終わった時、貴女の心は彼女のナカに還る筈でした。でも、あたしが介入したせいで……」


 ああ、なんだか泣きたくなってきた。


 あたしのせいで、あたしのわがままのせいで、この子に今の人生を変えろって言ってるのだ、あたしは……。


「って、あたしの今の人生が終わったらアリシアに還る筈だった? って。あたしは、この人生は、仮初の人生だったって、そういう事?」


「あうあう、そういうわけでも無いのです。この今の人生もちゃんと現実だしそもそもあなた、前にも言った通り将来あたしになるんです。だから全てがあなたなのですよ?」


「だからあなたはずっとあなたではあるんだけど……。ただ、どうしてもいっぺんアリシアに還ってもらう必要が出てきちゃったんです……。そうしないと辻褄が、因果が、ズレてしまってこの世界毎せかいごとおかしくなってしまうかもしれなくて」


「どうすれば、いいのですか……」


「ごめんなさい……。明後日の夜迎えに来ます。それまでに家出? を装っておいてくれませんか?」


「え? 家出って……? あたしほんとは死ぬ運命だったんだから、これでほんとに死ぬって事じゃ無いの?」


「まさか! そんなのあたしが嫌です! なんとしてでも貴女をもう一度この世界に返してみせます、から」


 あたし、そこのところは思いっきり声を張り上げて、そう言った。


 そんな。


 ラギの、セリーヌの人生がこれで終わりだなんてそんなのは絶対にダメ。


 それじゃほんと意味がないんだもん。



 だから。



 絶対にこの子をもう一度ここに連れ戻して見せる。



 どんな犠牲をはらっても。


 どんな手段を使っても。


 絶対に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三度目の転生は猫でした【マシンメア=ハーツ】 〜もふもふと恋愛はどうするんですか!?〜 友坂 悠 @tomoneko299

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ