第53話 アイデンティティ。
それはあたしが王宮に向かおうと思っていた朝、だった。
今日はお茶会だし少しはかわいいかっこしていくかなぁとかけっこうノリノリに衣装を選んでいるその時。
世界がずれた。
そんな感覚があたしの中に走ったのだ。
(主様。アリシア・ローレンが起きました。起きたのですが……。どうやら心が戻って居ないみたいで……)
そんなデートリンネの声。
(どうしましょう。今の彼女にわたくしが干渉するのはまずいですよね?)
(そうですねー。このアリシアは前回主様がアクセスした時のあのアリシアよりも前。一回目の目覚めのようなのです。本当だったらちゃんと目覚めている筈だったのですが……)
(どうしてでしょう……)
(何かズレでもあったかもしれません。主様はお心あたりありません?)
え?
ああ。
それってもしかして……。
精神の同期をしてるとあちこちのあたしの心が一つになる、そんな感覚を味わえる。けれど。
千年前のラギに干渉したのはこのあたし。
もしかしてあたしの責任、かな……。
(あたしのせい? かな……。ごめん。ちょっと様子を見てくる)
「ごめんノワ。あたしちょっと過去に行ってくる! ちょっと待っててね!」
そうノワに声をかけてそのまま時空の狭間に滑り込んだ。
まずはアリシアの様子、見てこなくちゃ、だ。
☆☆☆
一回目のアリシアはふつうに何回かのVRを送った後目が覚めている筈。
というか起こされている筈。
心が生きていればそのまま目覚めるのだけれど。
辿り着いて様子をみてみると、どうやら心がここにない状態、だ。
って、どうしてこうなった?
今は身体の解凍、蘇生が済んでいる状態。
なんとか生命維持装置をつけたままベッドに寝かされている。
でも。
このまま心が戻らなければ、脳死、という処理がされてしまうかも、で。
まずいまずいまずいよ。
そうしたら遥香のあたし、存在出来ないじゃない。
因果が変わると結果は違った事になる。
遥香が存在しなかった世界が生まれてしまうのだ。
そうすると、あたしが居なかった世界ができてしまうって事で。
あたしが居た世界がなくなっちゃうって訳じゃ無い。
でも。
あたしが居なかったこのマシンメア=ハーツの世界っていうのはなんだか……。
数多の多重世界にも、同じ人物が何処にもここにも存在するって場合と、その世界オリジナルな場合とがあるにはある。
でも。
同じあたしなら同じあたしとして数多の多重世界で同期して居られる。そこに違う世界ができるのは避けたい、な。
もうこれはあたし自身のアイデンティティの問題。
だから、なんとかしなくっちゃ、いけない。
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