第51話 幸せな時間。

 ジークに抱き抱えられ馬車の横扉の上から助け出されたセリーヌ。


 魂は肉体に戻したし、もう安心かな。


 この子にはちゃんと生きて欲しい。ほんと、諦めちゃうんじゃなくて。


 今回あたしがこの子のレイスの入り口をこじ開けちゃったせいで、たぶん本来のチカラに目覚めることになるだろうとは思うけど。


 それはそれ。


 王都が夢奴の集団に襲われることになるあの時に本来目覚める筈だったチカラを、前もって目覚めさせてしまう事で何かが変わるのか?


 そこだけがちょっと心配なんだけどね。


 病院に運ばれたセリーヌだったのだけど、服や髪が血だらけなのに肉体的な損傷が無く内部の検査も異常がないと判断され。


 これは瀕死の状態から治癒魔法が発動したのでは? という結論になったっぽい。


 まあね。もともと王家の一員。能力者の血を引いているはずのセリーヌがこれまでなんの能力も発現しなかった方がおかしいと、王もそう納得して。


 死んだ母親は治癒能力に優れた家系であったのでこの子もやっと聖女としての能力に目覚めたのだろう、と。そうおっしゃってた。


 祭祀を司るレイズ王家の一員として相応しい存在になったのだと話すその姿がなんだかすごくふにゃぁだったけど。




 ジークははひたすら妹に甘かった。


 入院病棟で思いっきり甘いお菓子をいっぱいひろげて二人で食べて。


「おにいちゃん、ありがと」


「ほんとによかった。ラギの身に何かあったらと思うと生きた心地がしなかったよ」


 そう優しく笑うその姿に。




 あー、ダメダメ。


 あたしはどうしても魔王、魔・ラスレイズの姿を思い浮かべてしまう。


 あれは違うんだって、頭ではわかってるんだよ? でも。


 たぶんここのラギなら、ラスがどんな姿になったとしても大好きだって、そう思うのだろうけど。




 そういえば。


 事故の原因となったオート・マタは故障と言うことで結論付けられた。


 この世界はすべてマザーによって管理されている。


 人の最大幸福を選び取りそれを確実に実行する機械神の御使い、それがマザー。


 母なるマザーのなさる事に間違いなどない、と。


 そう話す王。バスクート・ランベル・レイズ


 仕方ないよね。レイズ王家とてそのマザーの政策を実行するためのしもべでしかないのだから。


 この世界は機械神の僕であるマザーが全てを決定し、そして運営している。


 それに逆らうなど許されない、のだった。


 それがたとえ理不尽に見える選択であったとしても、王には逆らう術などなかった。


 セリーヌであったとしても同じこと。このままの人生であれば逆らうことなど考えなかったかもしれなかったのだ。



 あたしはそのまま彼女を観察し続けた。


 あは。


 人生を謳歌しだした彼女は日増しにおてんばな言動が多くなり。


 うん。このまま幸せに過ごしてくれていればいいかな。


 そんなふうにも思えたものだった。そう。あの時までは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る