第42話 タクマ。

 街では外れに家を持っている。

 外れにあった空き家を買ったのだ。


 宿住まいも悪くは無いが、やはり長期になると金も嵩む。

 手持ちが無くなった時に宿無しになるのもな。そう思って。


 手持ちの金貨はこの世界でも通用したのでそれでなんとかした。家具もある程度揃っていた空き家だったから、とりあえず眠る場所さえあればいいととくに迷わず選んだのだった。


 一人暮らしには少し広いが、生憎と一緒に暮らすことの出来るような相手は居ない。


 そもそも、男なんぞを泊めようものなら身の危険も感じる。かといって女と暮らす気にもなれず。


 この数年、一人暮らしを続けていたのだった。




 まあ、好きな時に飯を食って好きな時に酒を飲んで。


 そんな暮らしも慣れたけれど、たまには一緒に酒を飲む相手がいてもいいか。




 ウサギの捌き方にも慣れた。さっと血を抜き洗って鍋に入れ火にかける。


 味付けは塩と胡椒。そこに味噌を入れ。


 この世界に日本にあったのとほぼ同レベルな味噌があったのには驚いた。


 しかしまぁ。そのおかげでこうして味噌味の鍋が出来るのだ。感謝しなくちゃな。そうも思う。





「ねーさんの手料理かぁ。俺、クランの先輩たちにどやされそうだよなぁ」


「バカ言ってんじゃ無い。それよりも酒は持ってきたんだろうな?」


「そこはもう任せてくださいよ。秘蔵の酒、なんかの果樹酒みたいなんですがね、あったんで」


「……何処からとってきたんだ?」


「ひどいなー。ちゃんと賭けで頂いたしろものですよ。そんなバレたら困るような真似はしませんて」


「ならいいが……。もし嘘だったらクランから叩き出してやるからな」


「怖いなぁ、もう。そこもいいんですけどね」


「バカ……」



 とりあえず酒を酌み交わし鍋を食い終わった頃。


「そういえばなんですけど、俺、なんだか誰かに呼び出されたんですよね。昨日ギルドに張り紙がしてあって」


「どういう事だ?」


「俺を探してる、次の休息日に公園で待ってる、って内容で」


「公園か。それはそれは。女か?」


「な訳ないじゃ無いですかー。俺に言い寄る女なんてこの界隈にゃ居ませんって。何しろうちのクランでも圧倒的に男の方が多いときたもんだ。まともに女に手を出したかったら町娘狙うしかねえっていうのに、やつら塩ですからねー」


「じゃぁなんだろうな? なんかまさかどっかで恨みでも買ったか?」


「そっちの方がありそうで。怖いんすよねー。ほら、最近やってきた連中いるっしょ? 誘ってもクランに入らないくせに妙にイキがってるグループ。あいつらと前揉めたことあったりするんすよ。それだと嫌だなって」


「なら行かなきゃいいじゃねーか。バックれろよ」


「それも気になるじゃ無いですかー。ほんとに女だったらって」


「バカやろう。なら好きにしな」


「待ってくださいよー、ねえさん。だからそこは『あたしがついてってやろうか?』って言ってくださいよ」


「ほんとバカだなおまえ。そんなことしてオレになんのメリットがあるっていうんだ? それに相手が女だったらオレがいちゃ困るだろ?」


「あ、嫉妬してくれるんすか? 嬉しいなあ」


「もう。いいよおまえ、死んでこい」


「そう言わないでお願いっすよー。一生のお願いっす。ついてきてくださいよー」



 ふっ。


 ほんとバカだよなこいつ。


 でもまぁ。しゃーないか。


 タクマって名前もな。そのせいでなんだか手間のかかる弟みたいな気もするんだよな。



「まあ、しゃーねー。ついていってやるよ。って次の休息日って明日じゃね?」


「そうっす明日です。明日の昼。ほんとありがてえよろしくお願いしまっす!」


 そうにこにこ笑うタクマ。


 マハリは頭を掻きながら、


 憎めないな。結局さ。


 そう零した。

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