第41話 マハリ・アジャン。

 ピューイ


 口笛の音が響く。


 ピューイ


 もう一つ、先程の口笛に応答する様に鳴る。


 これは……。


 作戦終了の合図だ。




 マハリ・アジャンは竜馬リュウバの腹を足で叩くとそのまま街に舵を取った。


 今日は結局大物は居なかったか。


 散開してデザートトロールの痕跡を追いつつ各自狩をする。


 大物が見つかれば集合して相対し、本命デザートトロールが見つかればオーケー。見つからないまま夕刻になればそのまま作戦終了だ。



 マハリが所属するクラン、『竜血の炎』


 アストリンジェンを拠点に活動している彼らは、皆、異世界からの流れ者だった。


 本来であればゲームの世界で活動していたはずが、気がついたらクランメンバーの半数がこの世界に渡ってきていて。


 当時のメンバーは20人の大世帯であったからそれでもなんとか生きていく事も出来た。


 そこから半数が脱落し、いや、命が尽きて。


 残ったメンバーに新規で流れ着いたものが加入して。


 今では当初の倍、40人を超す大人数の勢力となっている。



 そんなマハリもここ数年前に加入したばかりの新人ではあるのだけれど、こちらの世界に渡る前にかなりのアイテムを保持していたおかげでかなりの有力者と見なされていた。


 そう。


 この世界ではゲームの世界で保持していたアイテムをそのまま使用する事が出来たのだ。


 また、ゲームでのレベルや魔法、そういった能力も、この世界で当たり前に使用できた。


 そのため一部の異世界人の中には国に登用された者もいるらしい。そんな噂も聞く。



 それも、何だか嫌な話だな。


 そう一人ごち、マハリは帰路に着いた。


 この国は、どうも好かない。


 人間味が無いんだよな。ここの住人含めてさ。



 自分の今日の稼ぎはデザートラビットが二羽。


 まあ一人で運ぶならこんなものかとも思っている。


 クランに上納するとかそういう野暮な決まりは特にないので、今夜はウサギ鍋と洒落込むか。そう考えながら。




 クランは互助会みたいなものだ。困っていれば助ける。手に負えない相手なら集団で狩をする。

 しかし。


 細かいところまで干渉しない所が居心地がいいんだよな。


 そう、にやりと笑って。





「姉さん! いいですねウサギですか? 俺、今日も何も収穫なくて……」


 目敏くマハリを見つけ竜馬を併走させてきた若者。


「ああ、タクマ、だっけ? まあまた明日頑張りな」


 そうさらっと流すマハリ。


「ウサギ鍋、いいですよねー。俺も食べたいなぁ」


 ってこいつ馬鹿か? 甘えるのもいい加減にしろよな。と、


「なんでお前なんぞにやらなきゃならん? これはオレの獲物だぞ?」


 そう凄んで見せるも、


「いいじゃないですかー。かわいい後輩が腹空かせて頼んでるんですよー」


 と、介さない。


「金がないならクランを頼れ」


「そんなー。冷たいなーねーさん。まあそこも良いんですけどねー」


「馬鹿野郎。お前にねーさんって呼ばれる筋合いはねーよ」


 そういいつつも着いてくるタクマを無理に追い払おうとはせず。



 まあ、酒の相手くらいにはしてやるか。


 そう呟いた。

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