第40話 お風呂に入って。
図書館を出るとシルヴァは実体化して隣を歩いてくれた。
なんだかもう夕暮れ。薄暗くなってるから少し心細かったんだ。そんな気持ちもわかってくれたのかな?
「なあ。お前の中にいた間に、人生やり直しちまったくらいな濃厚な記憶が降ってきたよな」
ああ。シルヴァもあの記憶、見てた?
「俺はお前の一部みたいなもんだからさ。記憶も共有してるしお前のことならなんでもわかる。お前がセリーヌとして生きてきた記憶は今やっと帰ってきたみたいだけど、お前がセリーヌだったって事はなんも変わらないからな」
え?
「前のお前も、今のお前も、お前だよ。何にも変わらない。だからさ。そう不安になるな、な」
ああ。ごめん。
ありがとうシルヴァ……。
ボク、は、変わってしまったのかって。
あたしは、変化しちゃったのかって。
そんな風に不安になってた。
でも。
そうだよね。
ボクはボクだしあたしはあたしだ。
たとえこの中に二人分の記憶があったとしても、なんにもかわらない、よね。
シルヴァと並んで旅館、白水荘まで帰ってきて。
食堂で晩ご飯を頂いて部屋に戻る。
なんかたった一日で何年も経った気がして頭がオーバーヒートしてるからお風呂に入って今夜は早めに寝ようと思って、大浴場に行くことにした。
お風呂は共同浴場になってる。男湯女湯がちゃんと別れててわりといつでも入れるし、お風呂だけ外から入りにくる人もいるって話。
なんだか日本の温泉とスーパー銭湯を足して二で割った、そんな雰囲気かな。
記憶が戻って変わったって言えばこれ。
女湯に入るのに躊躇しなくなったってこと、かも。
この世界に来て身体が女性になって、それはそれ、内心嬉しかったけど。
でも、自分が女性では無いっていう意識がけっこうコンプレックスだった。
こういう大きなお風呂がアンダーノウスでも無かった訳じゃないけど、どうしても入ることが出来なかった。
なんだろうね。罪悪感と劣等感の入り混じったそんな感情。そういうのが邪魔してた、感じ。
マーリンさんにも一緒にお風呂入ろうって誘われた事もあったけど、断っちゃったしね。
脱衣所で服を脱いで頭はゴムでまとめて浴場へ。洗い場で身体を洗って湯船に浸かる。
やっぱりこうして足を伸ばして入れるお風呂って最高。
たゆたゆと浸かってると眠くなっちゃう、かな。
お風呂はそんなに混んで無くて二、三人居るくらい。
貸し切りみたいで嬉しいかも。
香草の入った湯や壺湯に露天まであって。いくつかの湯に入って満足したところであがった。
ほんわか身体があったまると、ほんと悩んだりしてたのがバカらしくも思えてくるかな。
冷たいミルクを飲んで部屋に帰り、そのままベッドにゴロンと転がった。
ツインのベッド、向こう側にはシルヴァが寝てる、か。
なんだか疲れたな。
って、思ってるうちにそのまま寝ちゃってた。らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます