第37話 この子はあたし、なんだから。

「どうなさったのですか?」


 夢の中ではあるけれど夢じゃない、そう感じている夢。


 ちょっと不思議。


 彼女は困った顔のままあたしの方を見てる。


 何か言いたげで。でも、躊躇している。


 そんな雰囲気だ。


「ごめんなさいセリーヌ。あなたには大事なことをまだ話していないの。でもあなたの人生にとってものすごく大事なことなんだけど、ね……」


 そんなふうに話す彼女。


 なんだかすごく周りくどい言い方、だよね?


「もう、はっきり言ってください。何があったんですか?」


 痺れを切らしてちょっと語尾を強めにそう話すあたし。


 ああ、ますます困った顔になる女神様……。


 そんな顔させたいわけじゃないんだけどな。




「ごめんなさい。貴女の心は実は別の世界にいるアリシアっていう女性と繋がっているんです。彼女がコールドスリープ中に心だけ貴女の中に居る、そう思って貰えばわかりやすい、かな?」


 え? 


「貴女の人生が終わった時、貴女の心は彼女のナカに還る筈でした。でも、あたしが介入したせいで……」


 ああ、なんだかほんと泣き出しそうになってるよ。女神様……。


 って、あたしの今の人生が終わったらアリシアに還る筈だった? って。


 あたしは、この人生は、仮初の人生だったって、そういう事?


「あうあう、そういうわけでも無いのです。この今の人生もちゃんと現実だしそもそもあなた、前にも言った通り将来あたしになるんです。だから全てがあなたなのですよ?」


 え、え?


「だからあなたはずっとあなたではあるんだけど……。ただ、どうしてもいっぺんアリシアに還ってもらう必要が出てきちゃったんです……。そうしないと辻褄が、因果が、ズレてしまってこの世界毎せかいごとおかしくなってしまうかもしれなくて……」


 悲しそうな顔の女神様。


 この子が嘘をついているようにも見えないし、あたしの未来だっていうこの子がこう言うならたぶん、あらがうすべは無いのかもしれない、かな。


「どうすれば、いいのですか……」


「ごめんなさい……。明後日の夜迎えに来ます。それまでに家出? を装っておいてくれませんか?」


「え? 家出って……? あたしほんとは死ぬ運命だったんだから、これでほんとに死ぬって事じゃ無いの?」


「まさか! そんなのあたしが嫌です! なんとしてでも貴女をもう一度この世界に返してみせます、から」


 女神の彼女、そこのところは思いっきり声を張り上げて、そう言った。


 あはは。


 なんだか、うん。この子、あたしだ。


 この子の気持ち、わかるよ。


 詳しい事情はわからない。でも。


 この子があたしをもう一度この世界に返してくれるっていうのなら、それを信じよう。



 だって。この子はあたし、なんだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る