第36話 マザー。
助け出され病院に運ばれたあたしだったのだけど、服や髪が血だらけなのに肉体的な損傷が無く内部の検査も異常がないと判断され。
これは瀕死の状態から治癒魔法が発動したのでは? という結論になった。
もともと王家の一員。能力者の血を引いているはずのあたしがこれまでなんの能力も発現しなかった方がおかしいと、お父様もそう納得して。
死んだ母親は治癒能力に優れた家系であったのでこの子もやっと聖女としての能力に目覚めたのだろう、と。そうおっしゃった。
祭祀を司るレイズ王家の一員として相応しい存在になったのだとあたしのことを道具みたいに話すその姿がなんだかすごく嫌だった。
兄様はひたすら甘やかしてくれた。
念の為の入院となったあたしに甘いお菓子を買ってきてくれて。
「おにいちゃん、ありがと」
「ほんとによかった。ラギの身に何かあったらと思うと生きた心地がしなかったよ」
そう優しく笑うその姿に。
あたしは、しあわせを感じて。
事故の原因となったオート・マタは故障と言うことで結論付けられた。
この世界はすべてマザーによって管理されている。
人の最大幸福を選び取りそれを確実に実行する機械神の御使い、それがマザー。
母なるマザーのなさる事に間違いなどない、と。
そう話す父。
レイズ王家とてそのマザーの政策を実行するための
マザーはあたしが邪魔、なの?
邪魔、なんだろうな……。
その後も細かい妨害? みたいなことはあったけれど、幸にして(これは本当に)能力に目覚めたあたしにとって、事故を回避する事はそれほど難しくは無かった。
事故に見せかけた以外の直接的な刺客までは来なかったし。
まあ、でも?
少しだけ自信がついたあたしはそれまでの何もかも諦め切った人生をもう少しだけやり直す事にした。
思考をポジティブに切り替えるのってけっこう大変だったけど、ゲームみたいな物だと思えばできないこともなくて。
それまでの大人しい王女から一転おてんばな王女とよばれるようになったけどそれはそれ、楽しかった。
あの時。将来何が起こるのかまで具体的に聞いている余裕は無かったから不安もあったけど、でも今はこの人生を謳歌しよう。
そう思った、ううん、思えたのだった。
あたしが次にあの女神さまに会ったのは、それから5年後、あたしが十五歳の春の事だった。
「困った事になりました……」
あたしの夢の中に現れた彼女はその愛らしい顔をしょぼんとさせて、そう言ったのだ。
あれから5年経っているのにぜんぜん変わっていない彼女。逆に、今のあたしの容姿とそっくり? な感じ、で。
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