第32話 クリソベリルキャッツアイ。

 続いて2冊目の本が開かれた。


 うん。この本は全部で10冊に分かれてたっけ。この先は王統十代に渡る魔道王国の歴史がヒロイックファンタジー並みな躍動感を持って描かれている。はず。


 なんだかキオクが少し頭の中に現れた気がする。


 うん。この先、わかるよ。


「ありがとう。この本はもういいわ。フロスティ。次は現在の政治経済の本が読みたいです」


 そう言うと傍に控えていたフロスティ、ちょこん、と耳をピンとたてて。


「わかりました姫さま。では見繕って参りますのでご休憩ください」


 そう言って素早く本をワゴンに戻すとさっと部屋を出て行った。無駄な動きがほとんどない。すごいな。


 入れ替わりにタビィがお茶のワゴンを押してきた。


 さっとテーブルの脇にワゴンをつけると、猫の手なのに慣れた手つきでティーポットからカップにお茶を注ぐ。


 輪切りのレモンが添えてある。レモンティーだ。


「ありがとうタビィ」


 かちゃんと目の前に置かれたそのカップを口元に持ってきて、ちょっとふうふうしてから舐めるように飲む。


 あは。美味しい。


 ちゃんと好みに合わせて用意してくれたのね。


「姫さまの好みちゃんと覚えてましたよ」


 そう、えへんって感じに腰に当てられた手がかわいい。


「ほんとありがとうね」


 と、あらためて声をかけるとちょっと照れたように小首を傾げるタビィ。そんな仕草もほんと可愛くて。




 紅茶を舐め、もうちょっと冷めてから飲むかなぁとか考えてほわんとそのまま頭を休め。


 うーん。

 でもこれはやっぱり。


 ボクは、やっぱりセリーヌなんだな。そう実感して。


 今までどうしても納得できなかった、けど。


 少なくともボクの中にセリーヌがいるのは確からしい。




「やっと納得してくれたのかい? セリーヌ」


「ああ、フニウ……、ごめんね」


「ふふ。頑固なのはセリーヌなんだよね。やっぱりさ」


 え?


「だからしょうがないね。時間かかったけど。もうそろそろいいかな?」


「何が?」


「セリーヌのキオク、さ。僕の持ってる君のキオクを返しても、いいよね?」


 はう!?


 フニウがふわりとボクの目の前に浮かぶ。


 その、金色の瞳が左目だけ金緑に変わり。




 その、クリソベリルキャッツアイの瞳にボクの心は飲み込まれた。ような気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る