第30話 シロタとサバコ。

「右がシロタ、左がサバコだよ」


 フニウがそう紹介してくれた。


 確かに左側の子は完全サバトラ柄。

 右側の子は一回り大きいかな? 薄鯖で胸の下が白いサバトラ白だ。


 ふふ、かわいいな。


「失礼な。ぼくにはフロスティって立派な名前があるのに」


「わたしだってタビィって素敵な名前があるのですよ」


 あうあう。


 イカ耳にして抗議するふたり。


「ごめんなさいね失礼な事言っちゃって」


 そうフニウの代わりに謝って。


「……今度の姫さまは礼儀正しいね?」


「……今度の姫さまはお優しそうね?」


 目がボクとフニウを行ったり来たりしたあと二人でこそこそそんなことを話す猫さんたち。


 ん? 今度の姫さま?


 っていうかさっきから姫さまって、ボクの事?


 っていうか姫さまって、誰にでも言うんじゃなくて完全にボクをセリーヌだと把握してそう呼びかけてるって事?


 だとすると今度のって……。


「今度のって、どういう意味ですか?」


 と、そう聞いてみる。


 単刀直入に。たぶん一番わかりやすいよね。


「だって、前の姫さまは乱暴でしたし」


「だって、前の姫さまはわたしに抱きついてもふもふしたり、でしたし」


「ぼくのことシロタシロタって何度言ってもフロスティって呼んでくださらなくて」


「わたしのことサバコサバコって缶詰みたいに呼んで、ちゃんとタビィって素敵な名前で呼んでくださらなくて」


 あうあうあう。


 前のセリーヌって、なんだか想像してたのと違う?


 おてんばひめ、だったのかな……。


「あうあうごめんなさいね」


「良いのです。姫さま。ではあらためて。本日はよくおいでくださいました」


「あらためまして。姫さま、本日はどのような本をお探しでしょう?」


 そう小首を傾げ話すフロスティとタビィ。


 もう、かわいい!


 抱きしめてもふもふしたくなる欲求を抑えて。


「えっと、まずこの国の歴史を知りたいのです。そういうお本はありますか?」


「わかりました。御用意致します」


「では姫さま、閲覧室へどうぞ」




 ボクは二人にうながされるまま、真っ赤な絨毯の上を歩いていく。


 靴音は絨毯に吸収され、静かな空間の中到着したのは豪華なアンティークっぽいテーブルと椅子がしつらえられた個室だった。

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