ヒュドラ
今回の白昼夢リーディングは今までの、それとは違った。
突然、身体が焼かれたように熱くなり目の前に『赤く輝く6つの眼球と数人を一気に頬張れるような大口をもった白い大蛇』が現れる。
直様、これが今頭礼央の記憶をリーディングした白昼夢だと判る。
判ってはいるが、白昼夢リーディングでこんな感覚になることは今までなかった。
今までは記憶を保持している他人の皮越しに体感している『保護膜に覆われて見ている』ような、あたしではない他人になる感覚があった。
このクリーチャーには、その他人の皮といった保護膜を突き破って迫ってくる圧倒的な臨場感がある。
あの夜、生身のプラネテスに感じた恐怖の何倍も濃度を増した絶望が身体を駆け巡る。
足元には黒い水が湧いて溢れている、その水に足は取られ身動きもできない。
死のイメージが脳裏に貼りつく。
逃れられない死の恐怖で叫びたいのに、身体は焼け崩れていく感覚に浸食され声すら出せない。
これが白昼夢ならば、人はありもしない幻覚によって命を奪われることがあると知る。
突然訪れた死の宣告に、あたしは意識を失った。
----
気づくと自宅のベットに寝て朝を迎えていた、もちろんあの後の記憶はない。
あたしは死んでいないことを確認するように、両腕を押さえて震えを止めた。
弟の話では22時くらいにチャイムが鳴る、外を確認すると玄関先にあたしが倒れていたらしい。
弟は心配していたが、執念い詮索はしてこなかった。
怪我や暴行されたような気配はなかったから、普段のあたしを知る弟とすれば何か事情はあっても信頼してくれたのだろう。
あたしは普段と変わらずに学校に行くことにした、もちろんソータや美由紀ちゃんが学校に来ているとは思ってはいない。
あたしが学校に行った方が美由紀ちゃんには都合がよいと、特に理由はないがそう思えた。
やはり美由紀ちゃんは学校に来なかった。
きっとはぐれ堂に1人で行ったに違いない、彼女に他の選択肢など有り得ない。
明日からはGWが始まる、学校が終わったらソータの家を訪ねてみよう。
2人はきっと戻ってくる、いや必ずあたしが助ける。
パパの時とは違う、あたしは知ってしまったのだから、この世界は外の世界の片隅でしかないことを、その片隅は何れ外宇宙に呑みこまれる虚ろな宇宙でしかないことを。
2人に出会ってまだ1か月も経っていない、なのに2人の存在はあたしの中でこんなにも大きい。
2人に出会って、世界は変わってしまった。
何れ呑みこまれて消える絶望的な世界なのだから、何があっても仕方ない。
だから好き勝手にやってやる。
あたしは自分の孤独や悲しみを癒すため、全身全霊で2人を救い出す。
それは、唯一あたしがあたしでいられる選択。
この混乱した思考回路は不思議と、あたしの心を穏やかにしてスッキリさせてくれる。
どうにもならないこと、仕方ないこと、絶対的に判らないことがあると知ってしまった。
それはカオス。
及ばないことだらけの世界では、余計なことや無理なんてしなくていい。
どうせダメなら、好きに生きるしかない。
未来と過去に救いがないなら、今に全てを捧げ尽くし切る。
その先に命があるなんて保証はないのだから。
だから絶対無理でも、ソータと美由紀を必ず助ける。
パパの時みたいに絶望を前にして立ち止まらない。
あたしは知っている、立ち止まっても前に進んでも未来は変わらないことを。
絶望が終わらないことを。(了)
ミズキとミユキ【適合者シリーズ6】 東江とーゆ @toyutoe
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます