小早川水希

新しい世界

「もういい」と美由紀ちゃんの冷たい声を聞いて身体が竦む。


あたし余計なこと喋った?もしかして。

いやいや美由紀ちゃんは、こういう女の子なの気にしない気にしない。


いや、しかしマジヤバいな美由紀ちゃん。

何アレ?何か唱えたら今頭さん泡吹いて倒れて。

あんなことできるの?スゴいな美由紀パイセン。

協会ハンパない、普通じゃないよね。

あたしやっていけるか?

ああ、きっとこういう不安を見透かされて美由紀ちゃんに『浮ついた考え方』って言われてしまうのだ。


大丈夫、あたしはきっとやっていける。

だって今、こんなに気持ちは穏やかで清々しいのだから。


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肝試しで怪物ことプラネテスに遭遇した時、怖くて心を閉ざした。


パパが失踪して『無理にでも明るくいよう』と、暗い思いに呑み込まれないよう自分に言い聞かせた。


そしてソータに再会して、無理をすることも無理になってしまった。


あの夜以来、あたしの世界は変わってしまった。

あの時の気持ちを未だ上手く整理できていない。

ソータは『パパは助からない』といったが、反面で可能性がゼロではないというニュアンスで話していた。

それを証明するようにソータは簡単にプラネテスを呼び出して、テーブルを外宇宙に持ち運ばせた。

今あのテーブルはパパの所に運ばれて、パパが使っているのだろうか?

笑えない冗談だけど。


パパの遺品はあたしが管理していた、家族はそれについて関心がなかったから。なのでスムーズに協会へ譲渡できた。

刀子も、あんな危険なモノはあたしの手に余ると考えて協会に管理をお願いした。


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ソータは『ゆっくり協会に馴染めばいい』と言ってくれた。それは徐々に普通でなくなっていくという意味なのだろうか?

ゆっくり狂っていけばいい。


それでもいいと思う。


きっとクリーチャーに遭遇した恐怖は同じような体験をしたもの同士でないと、分かち合い癒せない。

だから協会に誘ってくれたソータには感謝している、誘い方はマジ怖かったけど。


あの夜、協会やプラネテスの話をするソータは悪魔の使いか悪魔そのものにしか見えなかった。

でも同時にあの瞬間『ああ、この人になら殺されてもいい』と恍惚としていた自分も確かにいたのだ。これは恥ずかしくて誰にも話せない。

ソータが怖すぎて、感覚が麻痺していたのかもしれない。

あの夜のことを考えると今でも震えてしまう、気持ちの整理が追いつかない。


気持ちは整っていなくても、感情はぐちゃぐちゃで形になっていなくても、心は穏やかというかスッキリしていた。矛盾した表現だけど。

何というか『仕方ない』といった心境。

パパのことだって何も解決していないのに、余計に事態は悪化しているというか絶望的なのに、薄情なほど清々しい。


あたしの住む世界は、悍ましいクリーチャーが溢れる『優しい絶望の世界』に変わってしまった。

その世界で無理に強がったり無理に明るくすることは、無駄で馬鹿馬鹿しいことなのだ。

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