山村聡太郎

聡太郎様が、その河原に居た。

この男の話が嘘でないなら、アリッサはわたしに嘘をついたことになる。


妃陀羅とヴァルゴの関係は?

はぐれ堂出身者だという妃陀羅の神子たちがグールと組み呼び出した『妃陀羅』と、そのはぐれ堂にいたクリーチャー『ヴァルゴ』に何も関係がないはずはない。

ヴァルゴの言葉を思い出す『神様というより神様の絞りカスね』それに『本来なら小暮に数年は寄生するはずでした、しかし事態が大きく変化して課題が発生した』


妃陀羅の絞りカスがヴァルゴなのではないか?

本体である妃陀羅が召喚され目覚めたというのが『発生した課題』なのでは?


そう考えれば妃陀羅は河原に拉致されていた聡太郎様を連れ去り『はぐれ堂』に戻っている可能性が高い。


妃陀羅またはヴァルゴがわたしに何を要求してくるのかは判らない、恐らく取引などという生易しいものではなく一方的な搾取に近いはずだ。


わたしには争う力がないのだから、甘んじてクリーチャーの要求には従うつもりだ。

しかし何故そもそもわたしに白羽の矢が立ったのか?わたしの価値といえば見鬼くらいだが。

また、わたしが取引に応じたところで聡太郎様が戻ってくる確証はない。まあそれでも従わなくてはならない、他に道がない限り。


聡太郎様の生死の如何に問わず、わたしは死ぬのだろう。

願わくば聡太郎様と死後の出会いが叶いますように、そしてその成就は遠い未来のことでありますように。


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「結局、河原が霊場だったの?今頭さん?」

小早川がいきなり質問を始めた。

制止するか?


「いやたぶん違う、ハッキリとは確証はないが」

今頭が話し始めた、しばらく小早川を泳がすか。


「場所に関係なく妃陀羅様は召喚されちゃう神様なんですか?」クリーチャーではなく、神様って言葉のチョイスが小早川らしい。


「そうは思わないし、そう伝わってはいなかった」ならば。


「どう伝わっていたんですか?」

そうなるな、小早川。


「如何に伝わっていたのかは難しい、何故なら我が血族は妃陀羅神の解釈を誤って伝承していた罪深い業を背負っている、真の解釈を求めて故郷を去ったのが上井戸鷹人であり長い期間行方知れずだったのだから」


「恐らくあの少年が何かしらの触媒になって妃陀羅神は召喚されたのではないかと思う、あの少年だけがあの場の雰囲気に呑まれてなかった、つまりイレギュラーであり異質、常ならざる要素であり今までの儀式との相違点ゆえに妃陀羅神の降臨という僥倖が叶ったのだろう」


「鷹人があの河原を選んだのは、おそらくグールの門があの場所にあったからだと思う」


わたしは「もういい」と言って今頭の発言と小早川の質問を制止する。

これ以上は藪蛇だし、きっと知っても仕方ないこと。


肝心なことは聡太郎様を助けることであり、真実を知ることではない。

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