推測【美由紀】
小早川がどこまで理解したのかは判らない。
そもそもわたしが一番理解していない、何も知りはしないのだから。
クリーチャーは嘘をついている可能性があることくらい判る。
わたしがアリッサに黙ってヴァルゴの取引に応じても、聡太郎様は助からないのではとも思う。
でもわたしにできるのは命を捧げるくらい、他には何もできない。
聡太郎様が助からないなら、生きていても仕方がない。
「美由紀ちゃん、今頭礼央に会ってみようよ」小早川が思わぬ名前を出してきた。
この子のペースになると、わたしは途端に乱される。
「何の話?」努めて冷静に言い放つ。
「何って、ソータを助ける話でしょ?」小早川は憎たらしいほど抜けた笑顔で応えてくる。
わたしは不覚にも吹き出してしまう、きっと小早川は手当たり次第に思いつきで考えたのだろう。
どうせ何をやっても死ぬだけなら、少しでも聡太郎様が助かる可能性にかけて足掻くのも悪くない。
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小早川の疑問は『アリッサは白昼夢の調査確認中に小暮さんや榎本さん、そしてわたし日下をはぐれ堂に何故派遣したのか』
わたしから聞いた『はぐれ堂とは今は誰も住んでいない集落跡』という情報と、協会が面通し前に小早川が白昼夢でリーディングした男性を今頭礼央だと特定していた点を考慮して『今頭礼央は昔、はぐれ堂に住んでいた』と小早川はそう考えた。
つまり、わたしがはぐれ堂に行ったのは白昼夢の調査確認の一環だったというのが小早川の推理だ。
だから『今頭礼央に会ってみよう』という作戦を小早川は思いついた訳だ。
「今頭は何歳くらいなの?」わたしは確認する。
「ウチらより5、6歳は上かな?さすがに30はいってないと思うけど」小早川がキョトンとした顔で答える。
「はぐれ堂に今頭が昔住んでいた線は消えた、あの廃墟の様子からそんな若い人が住んでいた場所には思えない」
だから今頭とはぐれ堂は関係はない、と思う。
「でも、親とか住んでいた場所という可能性はない?」
あるかも、しかし今頭礼央に会うことでアリッサにわたしたちの行動が知られてしまうリスクがあるのでは?
そこまでして今頭礼央に会う必要を感じるほどの説得力は小早川の推理にはない。
ないけど、何か引っかかる気もする。
はぐれ堂へ行く前に、聡太郎様が助かるための情報ならできるだけ欲しいのは確かだ。
しかし下手に動けばアリッサに知られてしまう、それだけは避けたい。
わたしは後追いという形は嫌だ、聡太郎様の死を知ってから死にたくない。
それが唯々諾々とヴァルゴの指示に従っている理由の1つでもある。
だがアリッサに知られなければ情報は欲しい。
今までは見鬼の能力を発揮するため、情報は制限されていたが聡太郎様の命がかかっているのだから四の五言ってる場合ではない。
乏しい情報からの推理を支えているのは、おそらく小早川の直感だろう。
それは言葉の字面だけの情報ではない、会話のニュアンスや空気感、仕草や間の取り方から感じる違和感など、言葉にならない言葉を読み取っているから。
わたしは結果嘘をつかれていたが、アリッサやチームメンバーの様子から唯ならぬ違和感や緊張感を感じ取っていた。
嘘を見抜けはしなかったが、ザラついた不快感は確かにあった。
その感覚に従うことが見鬼には大切なのに、チームやアリッサの言うことだからと受け入れてしまったため、今回聡太郎様を危機に晒しているという事実。
『何か引っかかるなら、確かめた方がいい』
不安要素は色々あるが、小早川の推理に乗っかってみよう。それはそれで少し癪だけど。
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