邪恋【水希】

「小早川、そのクリーチャーのことはアリッサには黙っていてくれる?」何時もの無表情は変わりないけど、美由紀ちゃんから得体の知れない圧を感じる。


「アリッサに知られたくないの?」

そんなことある?

協会員としての誇りを誰よりも大切にしている美由紀ちゃんが、チームに、アリッサに、仲間に、協会に、隠し事なんて。


あたしは、さっき美由紀ちゃんが話していた『聡太郎様は急遽協会の任務が入ってしまい、暫くは休校して家にも戻らない』というアリッサからの伝言が頭を過ぎる。


「美由紀ちゃん、それってソータが危ないってこと?」

美由紀ちゃんが協会やアリッサを裏切る理由なんて他にない。

美由紀ちゃんはきっと、ソータのために死ぬ気なんだ。


美由紀ちゃんは自分を拾ってくれた協会に恩を感じている、その協会の総裁は彼女にとって絶対の存在だ。

先日あたしは総裁のことを軽々しく話題にしてしまい美由紀ちゃんがブチキレて、マジ死が過ぎった。

美由紀ちゃんはそんな総裁の孫のソータが、ヤバいくらい大好きだ。


それは愛情とか恋愛とかレベルじゃないほど、周りが引くほど慕っている。

ソータは『あれは狂信』と話していた。

また『日下はまず会うことはできない総裁への狂信を僕に投影させているだけ』とも言っていた。


しかし、それだけではないと思う。

総裁への想いをソータに重ねていたことはきっかけでしかない、美由紀ちゃんがソータに向ける思いは真剣だ。


たしかに恋愛というレベルではない、しかし狂信なんて言葉とも違う気がする。

だから美由紀ちゃんにとってソータが単に総裁の代わりではないと、わたしは感じてしまう。


美由紀ちゃんのソータへの想いが、恋愛でも狂信でもないなら何?

初恋も未だしたことがない、わたしには到底思いつかないけど。

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