第88話 歪んだ愛情
呆気に取られていた。
私は何も言えずにただ二人の会話を隣で聞く……。
日下部君と幼なじみと、本気の本心での話し合い……。
「わかった……じゃあ、俺はこの綾波と付き合っても……問題無いって事で良いんだな? 雪乃との仮の恋人関係は解消って事で」
「は? 駄目に決まってるでしょ?」
「え?」
「私は、学校でもう涼ちゃんと付き合ってる事に、そう言う関係になっているんだから、駄目に決まってるでしょ? 振っても振られても体裁が悪くなるの?」
「いや……、だって雪乃……好きな人が出来た言ってくれって」
「言ってくれとは言ったけど、それで解消してあげるとは言ってないの」
「いや、別の人に頼むって……」
「そう言えばやらないわけにいかないでしょ? 他の人に取られるって思うでしょ?」
「それだと約束が!」
「だーーかーーらーー、頼むとは言ったけど、解消するとは言ってないの、頼もうとしたけど居ませんでした、はい終わり~~」
「……そんな事して……一体なんになるんだ……俺は……もう」
「ふふふ、私には貴方が必要なのよ、恋人ではなく、幼なじみとして、必要なの」
「そ、そんな」
「楓ちゃんと同じよ、楓ちゃんは貴方の恋人にはなれない、でも貴方を必要としている。私も同じ……ずっと涼ちゃんを利用してきた……涼ちゃんが離れてわかったの、私には必要だって、ね?」
「そんな、そんな勝手な事が許されるとでも思ってるのか?」
「だから隠してたのに、全部ばれちゃうんんだもんなあ……でも離さない、絶対に離して上げない」
「駄目に決まってる……もうそんな勝手が許されるとでも」
「…………ふふふ、じゃあどうするの? 私と分かれたって学校中に言いふらすの? そして綾波さんと付き合うって宣言するの?」
「あ、ああ、事と次第によっては」
「あはははは、出来るわけ無いじゃん、私が今まで何で下げたくもない頭を下げて、人間関係を構築してきたと思ってるの? そんな事したら、私を捨てて直ぐに別の女に乗り換えたゲス男って言われるよ? 綾波さんも甲斐甲斐しく付き合っていた幼なじみから寝取った女って噂が立つよ~~、ついでに私の身体を利用するだけして飽きて捨てたって噂も立つかもねえ~~」
「ねと! ふ、ふええ!」
「お、お前! そこまで……」
「──怒った? うーーん、じゃあさ……いいわよ、とりあえず付き合っても、でも学校じゃあ、私と付き合ってる振りは続けてね……学校の外じゃあ……試合だけ来てくれれば良いから、後は二人でこそこそと付き合うのは許してあげる。ほら、どうせくだらない本を読んでたらいいんでしょ? その話が出来たらいいんでしょ? 卒業までこそこそと付き合ってくれればそれで」
「──いい加減にしろ! もういい! 明日菜! いくぞ!」
日下部君は立ち上がった。怒りに満ちた声で雪乃さんを怒鳴りつけながら……。
怖い……雪乃さんも、日下部君も……怖い……でも、でもここで終わりには出来ない、してはいけない……。
お姉ちゃんが言った……二人で乗り越えろって……日下部君は引き出した。雪乃さんの思いを……次は……私の番だ……私……ステージに上がれ!
「待って……日下部君……あの……わ、私と雪乃さん……二人きりで話させて……くれないかな?」
「……え? いや、で、でも」
立ち上がった日下部君は興奮して真っ赤になった顔で私を心配そうに見下ろす。
「大丈夫……大丈夫だから……ね?」
大丈夫……乗り越えろ私、ラスボスは、雪乃さんは……怖いけど……でも何千人の前に立つより、何万人に写真を見られるよりは怖くはない……。
私は姿勢を正し雪乃さんを見つめ、真っ直ぐに対峙する。
日下部君の幼なじみに、ラスボスに、私達同様、ひねくれた心を持つ女の子に。
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