第86話 ラスボス?


 「とりあえず付き合うって事で良いなら、お祝いに一つのハードルはクリアしてあげよっかな~~」

 今日子さんはニッコリ笑ってそう言うと、部屋を出ていった。


「……何?」


「ふえ? さ、さあ……」

 俺は明日菜を見つめると、真っ赤な顔のまま首を振った。

 一体なんなんだ? そう思い待っていると……。


「──さあ入りなさい」


「……」

 今日子さんは……どこかの小学生を連れて入ってくる、いやどこから連れて来たんだ? 犯罪だろ……あれ? って……お、お前!


「か、楓か?! 何でここに?!」

 ただでさえ小学生の様な背格好なのに、今日は輪をかけてロリ……。

 いやだって、今日の妹は、ツインテールにハート柄のミニスカート、薄いブルーのシャツにサマーセーターを羽織り、黒の塾カバンを背負っていた。

 どこから見ても塾に行く小学生女児……いや、今そんな事はいい、問題はなぜここにいて、しかも今日子さんに連れて来られたのかだ?


「まあ細かい事は気にせずに、とりあえず楓ちゃんの話だけでも聞いてあげて……良いのよね?」


「…………はい」

 妹は涙ながらにそう返事をする。……こんな殊勝な妹は今まで見た事が無い……下を向き今にも泣きそうな表情をしていた……。


 今日子さんに促され俺と明日菜の前に座った妹は、ゆっくりと話し始める。とんでもない計画を、とんでもない行動を……そしてその理由も……全て話していった。


 楓は俺と同様両親に幻滅していた。

 そしてとある計画を立てた。

 一つは俺にやる気を出させる事、両親に幻滅し、天才である妹にそして、それをする為にかなり昔から雪乃を利用していた事。


 そして……俺に……恋をしていた事を……。

 

 まず楓は自分と性格の似ている雪乃を操る事にした。

 少しずつ少しずつ雪乃を操り自分の考えを植え付けていった。

 まるで自分の生まれ変わりの様に……。

 そして仮想の恋人として……俺と付き合う様に仕向けたが、そこで問題が発生した。


 そう、雪乃は俺と兄妹の様な関係になってしまった。

 自分が海外に留学したばかりに……俺以上に雪乃は俺を兄の様に思ってしまった。

 そこで楓は一度リセットしようと考え、そう雪乃を誘導する。

 それに今度は俺が過剰反応してしまった。


 俺は雪乃を憎んでしまう……そして俺は逃げた雪乃から、現実から……。


 そこで出会ったのがあやぽんだった。そして更に綾波に出会う事に。


「……お前……そんな事を……」


「ご、ごめん……なさい……お兄ちゃん……ごめん」

 楓は泣きながら謝った、謝って済む問題じゃない……いや……俺はいい、俺はこいつの兄……家族なんだから……でも雪乃は、雪乃は……。


「とりあえず……雪乃に謝ろう……俺にも責任はある……二人で……謝ろう……」

 雪乃と俺が正式に付き合う前で良かった。もしあやぽんと、綾波と出会わずに楓の計画通り雪乃と付き合っていたりしたら……もしそんな関係になってしまったら……取り返しのつかない事になっていたかも知れない。

 ある意味洗脳された雪乃……そして……その洗脳が解けてしまったら……破綻が、最悪な事が起きたかも知れない。


「──うん……」

 メソメソと泣く妹……俺はそんな事をしてしまった妹に……なにも言えなかった。

 家庭環境、それを受け入れてしまった俺にも原因がある。妹とキチンと話して来なかった俺にこそ原因が……。


「──じゃあ、とりあえず手打ちって事で~~楓ちゃんは一旦私が預かるから」

 暗い雰囲気を一転させる様に今日子さんは明るくそう言った。


「「「え?」」」

 3人同時に聞き返す。


「楓ちゃんは私が預かるって言ったの、ここまで口出しして後は知らないじゃあ、無責任でしょ?」


「お姉さま……」


 お姉さまって……すっかり妹は……今日子さんに心酔している……。

 こいつ強い女性に憧れるからなあ……アメリカ映画オタだし……。


「で、でも俺は……」

 妹とじっくり話し合って一緒に雪乃に謝罪をしなければならないのでは?

 そう思い今日子さんにそう言いかけると俺の言葉を遮る様に言った。


「まあ、最後まで面倒見るのも良いんだけど、やっぱりラスボス位は二人で倒さないと盛り上がらないでしょ?」


「え?」

「ふぇ?」

 

「ふふふ、まあ、頑張って、私が手伝えるのはここまでだから」


「いや、ちょっと待って下さい、ラスボスって?」

 俺がそう言うと今日子さんは不敵に笑って言った。


「ラスボスは……貴方の幼なじみよ」


「は? 雪乃が……ラスボス? って……」

 一体……どういう事なんだ? 雪乃も妹の被害者なのでは?


「……人間ね、そう簡単に洗脳なんて出来ないのよ、いくら楓ちゃんでも……ね」

 今日子さんは寂しげな顔で3人を見て、最後にそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る