第85話 じゃあ、とりあえず全部話そうか?

 お兄ちゃんのスマホを細工して、位置情報を私のスマホで見れる様にした。

 後はスパイ道具を色々と用意してホテルで待機。

 一人になって色々考えていた。

 雪乃さんの事、お兄ちゃんの事、あの姉妹の事。

 弱みは見つけたが、それを利用するには証拠が必要だ。

 双子だと逃げられては元も子もない。

 ここで決めなければ、私は終わり……私の計画は終わってしまう。


 そして待つ事数日……遂にお兄ちゃんが動く。

 

 私はバレない様にと、今度は完璧な変装をしてホテルを出た。

 今回の変装はツインテールに子供服姿、黒いカバンを背負い塾に通う小学生の様な格好にした。

 カバンの中には工具や盗撮様ミニカメラ、コンクリートマイクに、レーザー盗聴器まで用意した。

 怪しい秘密道具を持ち運ぶので、絶対にバレない、職質されない格好にしてみた。

 そして今回、もしあの姉が何かしてくれば、叫べばいい。

 あの女を変質者に仕立てれば一石二鳥に。



「ふふふ、完璧!」

 スパイ映画はやっぱりアメリカよねえ。

 007はイギリス情報局だけど、配給会社はアメリカなのよ。


 私はスマホで位置を確認しながらお兄ちゃんの後を追った。

 そしてまもなくお兄ちゃん達を発見、なんと今回は姉妹で会っていた。

 そして私の予想通りあの姉妹は双子だった。

 これは大チャンス到来だ。


 私の今回任務、目標は、綾を二人でやっているという確たる証拠を掴む事。

 綾は双子なので何かと言い逃れが出来てしまう。仕留めるには、二人で活動をしている事を証明するには、写真と会話等の証拠が必要。

 雪乃さんを使って、噂で流す事も考えたが、これ以上雪乃さんを使う事は危険と判断した。


 加えて私の企みがお兄ちゃんを含む3人に、どれくらいバレているか? それも知りたい。


 さあ、これが最後、私の知識を騒動員して、どこへ行っても追い詰めてやる。

 そう思っていたけれど……。


 「しまった……」


 発見した3人はそのまま近所の漫画喫茶に入って行く。各ブースで仕切られているとはいえ、盗撮にも盗聴にも問題ない場所、一瞬おわつらえ向きかと思ったが……3人は受付を終えるとカラオケルームの方に向かって行った。


 私も慌てて店内に入る……。


「いらっしゃいま、あ、お客様当店は小学生は」


「ちゅ、中3よ!」


「……は? えっと身分証明って持ってるかな?」

 しまった……完全に小学生扱い……ま、まあ格好が格好だから仕方ない。

 私は鞄からパスポートを取り出し提出する。


「あ、失礼しました、では会員証をお作りしますので」

 そう言ってスマホのソフトをインストールし、会員登録をする。

 しかし、ここで問題が……どの部屋に入ったかわからない。

 そもそも一人ではカラオケルームに入れない。

 仮に二人分払うと言っても、恐らく駄目だろう。部屋を選ぶ段階であの女なら盗聴されない場所を選ぶ筈……。

 ただ一人専用ブースという物があったのでとりあえずそこに入った。


「やられた……」

 漫画喫茶のカラオケルームには基本窓はない……これでレーザー盗聴は封じられた。そして恐らく奥の部屋を選んでいるのだろう。これでは部屋の前を何気に通過し、中の様子を伺う事も出来ない。さらにその隣は人が入っている部屋を選んでいるのだろうからコンクリートマイクも使えない。

 おまけに周りが騒がしいので集音マイクも無理……完全にお手上げ状態だった。

 

「ううう、あいつ……ちくしょう……場所はわかるのに近付けない……」

 こっちの動きは全て読んでいるって事なのか?

 一体なんなんだ! プロか? プロなのか? 実は内閣情報室の人間? CIA? まさか……mossadか!


 なんてそんなわけ無いのはわかっている……しかし……ただ者ではないって事は間違いない。

 どうする? このままここで手をこまねいているだなのか?


 時間はどんどん過ぎて行く……一体何を話しているのか? 予想が全くつかない。

 気になる、凄く気になる……お兄ちゃんは……どうするんだ? 

 

 自分でコントロール出来なくなっている。お兄ちゃんのコントロールが全く出来ない……怖い……こんな事は今まで無かった。

 怖い……お兄ちゃんが怖い……お兄ちゃんに……嫌われるのが……怖い……。


「……うう、お兄ちゃん……ごめ、ごめん……なさい」

 涙が溢れてくる……泣き真似じゃない本当の涙が……。

 お兄ちゃんがコントロール出来なくなり、今何を考えているのかわからない……。

 バレかけている……お兄ちゃんの人生を狂わせたかも……そう思ったら……後悔の念が私を襲う。


「うう……どうしよう……お兄ちゃんに嫌われたら……どうしよう……」

 私の唯一の家族、私の唯一の帰る所……。

 自由に生きていく為の、最後の安らぎの場所……。


「……ばっかねえ、泣くなら最初からやるなっつーーの」


「ひ、ひうううううう!」

 突然扉が開き私を見たその人物は凄惨な顔でそう言った。


「あはははは、予想通りここにいた~~」


「ひ、ひうう、な、何で!」


「何でって、そりゃ一人で後を付けてくれば、ここしか入る所は無いでしょ……幼なじみと一緒に行動していないって事は、あんたの単独行動だったか……幼なじみちゃんも……かわいそうに」

 

「あ、ああ、あ……」

 言葉が出なかった……全てお見通しだった。

 完敗だ……これで終わった……私の野望は全て……。


「何を落ち込んでるんだか、まあ観念したって事で良いんだね?」

 私はうなだれたまま小さく頷く。

 

「そんじゃまあ、覚悟を決めたなら行くよ、お兄ちゃんの前で全て話してすっきりしなさい!」 

 終わった……何もかも……。

 私はうなだれたまま、お姉さまに手を引かれ連れていかれる……。

 全てを話す為に……お兄ちゃん達にした事全てを……。

 

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