第82話 好きってなんなんだ?


 揺らいだ、正直心が揺らいだ……。

 なんなんだ俺って、本当に最低だ。

 

 目の前にいる俺の幼馴染、ついこの間憎しみ迄湧いた幼馴染からの突然の告白。


 ずっと好きだった……ついさっきその気持ちが勘違いだって、そう結論付けたのに。


 でも、改めて好きだって目の前で言われ、俺の事が大事だって言われ、心がグラグラと揺らぐ。

 俺は綾波が好きなのに……好きな筈なのに、いまここできっぱりそう言って断る事が……出来ない。


 今でも大切だという思いは俺にもある。 妹と同じくらいに大切な存在。

 家族の様に付き合ってきた、姉の様に慕ってきた。

 もし雪乃が本物の姉なら、血は繋がっていなくても家族だとしたら、俺はきっぱり断っていたのかもしれない。

 妹と同様な関係なら、揺らいだりしなかっただろう……。

 でも、雪乃はただの幼馴染、赤の他人。

 

 簡単に縁は切れてしまう。


 そう考えたら、俺は雪乃の告白になにも言えなかった。

 否定も肯定もできなかった。


「あ、ありがとう……」


「ふふふ、どうしたしまして……」

 雪乃は笑顔でそう言って、またサラダを食べ始める。

 俺に結論を求める事はしない。俺からの返事を聞く事はしない。


 だから俺は……それに甘えてしまった。

 そこからは何も言えなかった。

 

 仮の恋人関係の解消も、綾波への思いも、何も言えなかった。



◈◈◈


 

『告白しちゃった♡ 涼ちゃんビックリしてたΣ(・ω・ノ)ノ!』

 雪乃さんからのメッセージが届いた。

 ふふふ、そう来たか、しかもお兄ちゃんは、何も言えなかった様子。


 頭の良さが裏目に出た……なんでも理詰めで考えようとするお兄ちゃん。

 自分の気持ちさえも理詰めで考える傾向がある。


 「雪乃さんも覚悟を決めたみたい」

 中々手放せないよね? 大切なおもちゃと一緒……。

 飽きても誰かが欲しいって思ったら、価値がある物なんだって、誰しも思う。

 

 改めてお兄ちゃんの価値を見出した雪乃さん……そう簡単に手放したくない気持ちになったみたいだ。

 

 さあ、後はあのゴスロリ女の方。


 あの暗い性格だ、お兄ちゃんは自分には勿体ない人って思わせれば、自然と離れていく筈だけど……。

 でも、問題はどうやってそれを思わせるか?


 ホテルのベットの上で、盗撮したゴスロリ女を眺め作戦を練る。


「……あれ? こいつ……似てる……似すぎてる」

 姉妹にしては似すぎている。あの芸能人女に……。


「ちょ……待って……まさか!」

 私はタブレットを手に取り芸能人女のSNSを見た。


「……まさか……」

 ひょっとしたら、こいつら……双子?

 しかも、時々見え隠れしてる顎の下のホクロ……。

 わざわざこんな所に付けるわけがない。


「……綾は……二人居る?」

 そうか……お兄ちゃんは知っているのか? いや、知ってしまったからなのか?

 まさにお兄ちゃんが読んでいた本の世界の話が現実になったわけだ。


「ふふふ、あははははははは、なるほどそうだったのか~~」

 私はフカフカのベットに寝転び足を天井に向かって持ち上げる。


「あのゴスロリ女も芸能人だったのか……」

 しかも……隠しているって事だよねこれ?

 

「ふふふ、弱み、みーーっけた」

 超進学校のお兄ちゃんの学校、校則は結構緩いけど、一つだけ駄目な事がある。

【アルバイトの禁止】

 これはかなり厳しいと聞く。

 学業が疎かになるって事で、入学時にかなり念を押される。

 良くて停学、仮にそれで学費を払えないとかなら間違いなく退学。


 だからあんな恰好をしてるのか……自分を偽る為に、綾って事がバレない為に。


「お兄ちゃんはそれであんなに入れ込んでいるのか」

 原因がわかった。そして一瞬で対策もいくつか思い付く。


 脅せば簡単だけど、それじゃあ、お兄ちゃんにバレた時、決定的に私との仲が悪くなっちゃうなあ……。

 どうするか、どの手で行くか。

 雪乃さんの一手で、じっくり考える時間が出来た。

 全ての材料は揃った、後はどう料理するかだけ。


「あいつに、あの姉の方の金髪芸能人女に一発いれられるかも~~あはははは」


 

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