第81話 本当に好きなの?

青空に向かってジャンプする雪乃、キラキラと汗が太陽に照らされ黒く日に焼けた剥き出しの腕や足がキラキラと輝く。

 

 久しぶりに雪乃がバーを跳んでいる姿を見た。

 美しく跳ぶその姿は、俺の心を揺さぶる。

 もう諦めた筈なのに、もう思いは覚めた筈なのに……。


 雪乃と直接話をしたいと、俺は確実にいるであろう学校の陸上部のグラウンドに来ていた。


 金網越しに見る雪乃のジャンプの美しさを見て、中学生の時の気分に戻る。


 綺麗な背面跳び、日本一とも言われていた美しい空中姿勢は健在だ。

 何故これで予選落ち、記録無しなんて事になったんだろう……。


「やっぱり……俺が……居なかったから?」

 そう言った時の雪乃の顔が浮かぶ、寂しそうに、不安そうに……初めて会った時の様な、転校してきて、誰も知り合いが居なかった、あの時の、少女だった時と同じ顔だった。


「涼ちゃん~~」

 俺に気が付いた雪乃が笑顔で手を振った。

 俺も手をさりげなく振ると、周囲にいた他の男性部員に睨まれる。


 雪乃の幼なじみで恋人……俺は陸上部の部員、いや恐らく学校中でそう認識されている。


 人気者の雪乃が告白されない様に、付き合えない言い訳の為に……。


 でも……それが今は俺の足枷になっている。

 

 だから今日雪乃に会いに来た。雪乃に言う為に、好きな人が出来たって……言う為に……。


 

◈◈◈


「お待たせ~~どうしたの?」


「あ、うん……ちょっと話したい事があってさ」

 俺がそう言うと笑顔の雪乃は一瞬で真顔になる。


「そか……ねえ、お腹空いちゃったから何か食べながらで良い?」


「あ、うん……いいけど」


 俺達はそのまま駅ビルの中にある大衆イタリアレストランに入った。

 二人でドリンクバーと俺はドリア、雪乃はサラダを頼んだ。


「それだけ?」


「うん、ちょっと太っちゃったから的な?」


「そうなの?」


「まあねえ……色々と悩み事があって~~あはは」

 勿論太っている様には見えない、寧ろ痩せすぎなのでは? と、思うほどの体型、でも僅か数グラムの脂肪でも重りになってしまう競技……ハイジャンプは陸上部の中でもグラウンド内での練習は楽な方と思えるのだが、実際は節制節制の毎日で24時間練習をしていると考えると厳しい競技とわかる。


 中学から、いや小学生の頃からずっとそんな生活をし続けている雪乃に俺は敬意を表し、心から尊敬の念を抱いている。


 そして……その気持ちが、雪乃に対して抱いているその尊敬の気持ちを……俺は恋だと思っていた。


 でも違う……違っていた。

 尊敬は恋ではない……ってそう気付いた、綾波に気付かされた。

 俺は……最初から、雪乃を好きではなかったのだ……。

 俺の初恋は、雪乃ではなかったのだ。


「それで、話って?」


「あ、ああ……うん……あのさ……えっと……俺に恋人の振りをしてくれって言いに来た時、雪乃言ったよね? 俺に好きな人が出来たら言ってって」


「うん? 言ったっけ? まあ涼ちゃんがそう言ってるなら言ったんだよね? それで?」

 とぼけているのか? 忘れているのか? ウサギの様にかわいらしくレタスをむしゃむしゃと食べながら雪乃は表情一つ変えずにそう言った。

 

 始め雪乃は妹に何か言われているのでは? そう思っていたが、今の所雪乃からはそれらしい反応はない。


「……その、出来たんだ……俺……好きな人が」


「……へーー、誰?」

 雪乃はフォーク皿に置き、ウーロン茶を一飲みする。


「俺の隣の席にいる……女子」


「……綾波明日菜……」


「……うん……まあ」


「……涼ちゃんのクラスにも陸上部に入ってる人いるし、最近よく綾波さんと喋ってるけど大丈夫? 浮気じゃね? ってなんどかね~~」


「浮気って……そうなんだ……」

 

「それで、涼ちゃんはさ、その綾波さんのどこが好きなの?」

 雪乃はニッコリ笑ってそう言う……。


「え? えっと……どこがって言われると……」

 そう言えば……俺は綾波の何が好きなんだろう? 雪乃に言われて改めて考える。

 話が合うって魅力の一つだけど、でも今一説得力に欠ける気が……ただ顔もスタイルも実は抜群なんだけど、それは禁則事項で言えない……。もちろん実はあやぽんだって事も言えない。


「……言えないの? 本当に好きなの?」


「え、あ、いや……えっと……」

 あやぽんの妹……これは雪乃には言えるかもしれないけど、そんな事言った日には、姉と仲良くなる為に好きって事? 最低って言われるだろうし……。

 え? ちょっと待って……そう言われると、俺は……綾波の何が好きなんだ? え? あやぽんだったから? いや、でもその前から気にはなっていたけど……あれ?

 

 俺がそう悩んでいると、雪乃は姿勢を正して俺を見つめて言った。


「私は言えるよ……涼ちゃんの好きな所」


「え?」


「優しいし、面倒見いいし、頭も良いし、いつも私の事考えてくれてたし、涼ちゃんがいると私、安心できるし……」


「え? そ、それって……」


「うん……告白だよ……好きだよ涼ちゃん……私は涼ちゃんの事が……好き」


「ええええ! ……いや、えっと……ええ?」

 ど、どう言う事だ? 告白って、ちょっと待って……。

 一瞬冗談かと思った。でも雪乃は本気の顔をしていた。試合の時に様な、ハイジャンで跳ぶ時の様な、真剣な顔で俺を見つめていた。



【あとがき】

 忙しすぎて更新が~~気力が~~~~(;´Д`)

ブクマ、レビュー★宜しくお願いしたします。

レビューは最終話下から入れられます。★をクリックする簡単なお仕事で作者の気力が充填されます。(笑)

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