第68話 お風呂に突入します!


 雪乃さんからメッセージが来た。


『なんか途中までいい雰囲気だったけど……誰かからメッセージが来て明日の約束断られたああ、多分あいつだと思う……』


 あいつ……芸能人? いや、ゴスロリの方か……。


 うーーん、なんか邪魔だなあ……そもそもお兄ちゃんはどうなんだ? 


『とりあえずお兄ちゃんの様子を見ておくね、なんかあったら連絡する、陸上頑張って(  ̄ー ̄)ノ』

 と雪乃さんにメッセージを返しスマホをリビングのテーブルに置く。


「お兄ちゃん……なんかふわふわした足取りで帰ってきたかと思ったらそういう事か……」

 雪乃さんと上手く行ったのか? と思っていたが、違っていた……明日あいつと、あのゴスロリ女と会えるからだと……帰ってくるなりお風呂場に直行、今鼻歌混じりでお風呂に入っているお兄ちゃん……。


「お兄ちゃんは一体……」

 私は考えた……そして決めた。お兄ちゃんと……前から思っていた事を実行しうようって……一度きっちり話そうって、腹を割って話そうって……。


「そんじゃ~~一丁やりますか」

 私は立ち上がると、リビングから一度自分の部屋に戻り着替える。

 そしてそのままお風呂場に向かった。


 脱衣場でバスタオルを身体に巻くと、特殊部隊よろしく、お兄ちゃんの入っているお風呂場に突入した。


「……うわわわわわわ!」

 お風呂場に入るとお兄ちゃんは身体中を泡だらけにしてこれでもかって位にごしごし色んな所を洗っていた。

 

 なに真剣に身体洗ってるの? 明日の為の準備? 女子か?!


「お兄ちゃん、ちょっと腹を割って話そう!」

 日本風に言うと裸の付き合いと言う奴だ。


「お、おま、ちょっと待て、あわわわ」

 お兄ちゃんは泡だらけのまま浴槽に飛び込む、あーあ、泡風呂になっちゃった。まあいいか……。

 私はバスタオルを巻いたまま、お兄ちゃんを追う様に、一緒に浴槽の中に入った。

 二人入る事を想定していない湯量の為、ザバザバと溢れ出るお湯。

 

「ちょ、ま、え、えええ?」

 私の方を見ない様にしながら取り乱すお兄ちゃん、てかそんなに驚く? まああっちじゃ親子でも一緒に入るのは問題だけど、日本じゃ問題無いでしょ?

 私はお兄ちゃんに構わず言った。


「ひさしだねえ~~お兄ちゃんと入るの」

 随分と大きくなったもんだ、お兄ちゃん、いや身体がね、


「ちょ、は? か、楓……一体何を……」


「兄妹なんだからそんなに興奮しないでよ」

 話が進まない!


「こ、興奮なんてしてない!」


「じゃあ平気でしょ?」


「い、いや、それとこれとは……」


「お兄ちゃんに話があるの! お兄ちゃん真面目な話をすると直ぐに逃げるから、こうすれば逃げられないでしょ?」


「いや、だ、だけど…………わ、わぁったよ、何が聞きたいんだ?」

 お兄ちゃんは覚悟を決める様に洗い場の方を向き、私を見ない様にしながらそう言った。

 

「まあまあ、とりあえず昔ばなし、でもしようか……」


「──昔ばなしって……」


 今まできちんと話さなかった事、私達の両親……パパとママの話……。


「お兄ちゃんはママに、私はパパに、色々と教わったよね」


「あ、ああ……基本的には同じ事を教えているって聞いてる。世の中の事、礼儀やマナー、勉強以外の生きていく上で必要な事を教わった。ただ楓は、父さんと海外に行く事が多かったって違い位で」


「……今まで内緒にしてたけど……私はね……その海外のせいで、海外で女性がどんな扱いをされているか? レディファーストの裏の顔、日本もそうだけど、昔の女性の話を色々と教わった……今考えると子供に、女子に、なんて事をって……そう思う様な事まで……色々と……」


「そか……そう言えば……なんで逆じゃ無かったんだ? てか、何で一緒じゃ無かったんだ?」


「お兄ちゃんが海外は嫌だって言ったから?」


「そんな事言ったっけ?」


「うん……まあどっちでも結果は同じなんだけど……元々はパパの方が教える筈だったみたい、まあ、だから結果は同じなんだけど……それは良いの……あのね……私はね……お兄ちゃん……それ以来恋ができなくなったの……恋って無駄だって、愛なんて無いってそう思ったの」


「……まあ、わかるよ、俺なんて……生きていく事なんて……無駄じゃ無いのか? って思う様になったしね……」


「……あんな事言われちゃね……パパとママは愛し合っていたわけじゃないって、私達を作る為だけに……結婚したって……」


「子供にそれ言っちゃう? って思うよな……」


「……だからね、お兄ちゃんが雪乃さんの事を好きになったのって奇跡だなって」


「──は? え、ええええ!」


「あははは、知ってるよ、そして今別の人に興味を持ち始めたって事も……」


「えええ! いや……何で……楓が……まあ、楓なら……そうか……」


「あはは、うん……」

 お風呂に浸かっているからか、話が進む……こんな話を今までしたかった。

 でも、お兄ちゃんはいつも逃げる。私と真面目な話をしようとしない……いつかってずっと思っていた。今が、今日がいい機会だと……。


「だから聞かせて、お兄ちゃんは今誰が……どっちが好きなの? 雪乃さんと、同級生の子と」

 私は向き合ってお兄ちゃんに聞いた。

 お兄ちゃんは真っ直ぐに私の顔を見る。

 そして、一旦目を瞑り、少し考えてから言った。


「…………俺は……」


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