第67話 プラオリティ(優先順位)
わだかまりが完全に解けたわけでは無い。
元の状態には二度と戻らないだろう。
でも、この間迄の憎い気持ちは俺の中から消え去っていた。
雪乃との新たなスタートとでも言うのだろうか?
だが決して信用しているわけでは無い……。
それにしても、今までの態度、対応とあまりにも違う雪乃。
心を入れ替えた、とは思っていない。
俺の態度が、対応が変わったから一時的に素直になっているだけ?
それとも、妹が何か企んでいる?
「美味しかったね」
「あ、うん……だね」
「へへへ、二人でご飯とかいつ以来だろう?」
「中学に入ってからは一度も無いかな?」
「……そうかあ、中学時代……涼ちゃんともっとこうやって一緒に居れば……」
「え? い、居れば?」
「……ううん、なんでも無い、過ぎた事を言ってもね、じゃあ帰ろっか」
「……あ、うん、送ってくよ」
「何よ改まって、殆ど隣みたいなもんなんだから、一緒に帰ろ、でしょ?」
「あ、ああ」
一緒に帰ろ……か、小学生の頃に戻った様な気分だ。
何も疑わない、何も疑問に思わなかったあの頃、雪乃を好きだという自分の気持ちに全く疑う事が無かったあの頃が懐かしい。
まあ、それも大人になったという事だろうか?
雪乃と一緒に電車に乗る。
僅か数駅だけど、歩きで帰るには遠い。
そして十数分後、最寄り駅で降りる。
当然雪乃と俺は同じ最寄り駅だ。
電車の中ではずっと、陸上の話をしていた。
昔に戻った様に……ずっと……。
小学生の時、俺は体育館で雪乃の背面飛びの練習に付き合ったりしていた。
自分の知識を総動員させて、雪乃にアドバイスをしていた。
『もう! 涼ちゃん難しい事言わないで!』
思い出す、運動ベクトルがどうのとか語り始めたら、雪乃が切れた事を。
俺はそれ以来、口を出すのは止め応援に専念した。
「久しぶりに涼ちゃんの解説が聞けて良かった……」
「そ、そう?」
「うん……今ならわかるよ……」
「まあ、机上の空論なんだけどね」
「でも、うちのコーチよりも的確かも……私の事をよく知ってて言ってくれているってわかる」
駅から家まで、雪乃とそんな話をして帰ってくる。
しかし本当にどうしたのか? 雪乃がずっと素直過ぎる。
「あ、あのね涼ちゃん……明日なんだけど、時間ある? もっと話を聞きたい……かも」
雪乃の家の前で、相変わらず素直な雪乃は突然そう切り出す。
と、その時『チャ、チャーーン』と俺のスマホが鳴った。
こ、これは!
神からメッセージ来たああああ!
神様に着信音を変えておいた俺は慌ててスマホを取り出す。
「……ふお!」
「え? な、何?」
俺が雪乃の話を中断してスマホを見たからか? 雪乃が憮然とする。
「あ、ご、ごめん……えっとなんだっけ?」
「もう! だから明日空いてるって」
「ああ、ごめん、無理、予定入っちゃった」
「えええええ! それって今来たメッセージ? だとしたら、私の方が」
「ああ、アドバイスなら妹に聞いた方が俺より的確だと思うよ、じゃあ俺帰るから、ああ、応援は行くから今度試合がったら教えて、じゃあね」
「ちょ、ちょっと涼!」
今はそれどころでは無い、今の俺の優先順位、プラオリティ上位は綾波だから。
綾波が俺の神様俺の絶対だから。
ああ、愛しのあやぽんに会える、明日また本物のあやぽんに会える!
もう気分は上げ上げだった。
「うへへへ、あやぽん様~~」
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