第66話 利用される?


 ああ、もう可愛すぎるなこの子は……。


 夕飯を食べながら、スマホをチラチラと見ている私の愛する妹、明日菜ちゃん。


 あまり行儀の良い物じゃないけど、人には注意してくるけど、まあ、恋する乙女は彼氏からのメッセージが気になってしょうがないって事で許してあげよう。


 それにしても……どうしようかね、やっぱり言った方が、いやいや……でもなあ。

 自分で気が付かないと多分私が言ってもポカンだろうなあ。


 相手が神と思ってしまっている。

 ファンになってしまっている。


 そこから恋なんて芽生えるわけがない……。


 男女の関係って、綺麗事じゃない。

 

 相手は多分言いなりなる、なんでも言う事を聞いてくれる。

 でも……そんな状態で無理やり付き合えば、幻滅される可能性も……。


 それに……神様とエッチな事は出来ないよねえ、あははは。


「……お姉ちゃん、何笑ってるの? 気持ち悪いよ?」


「気持ち悪いとか言うなし、明日菜こそスマホ行儀悪いよ」


「あ! うん、ご……ごめんなさい」


「良いけどね~~」

 可愛いから良いけどねえ~~


『ピンポーーン』

 明日菜がスマホから目を離し、食事に集中しようとしたその時、メッセージを知らせる音が鳴り響く。


「は、はうううう!」

 どうしよう、見たいけど、行儀が悪い~~と思っているのか? 明日菜はスマホを手に取りあたふたする……もうどんだけ可愛いのよこの子は、何? 何? 私を萌え死にさせる気?


「──いいわよ、今日は」

 見て見ぬ振りしてあげると妹にそう言うと、妹は私満面の笑みで応える。


 ああ、もう抱き締めたいなあ。

 その代わり今日は一緒にお風呂入ろうね、と言おうとした瞬間……。


「ええええええ!」

 明日菜がそのメッセージを見て奇声をあげた。


「どうしたの?!」

 私がそう言うも明日菜は画面を見たまま硬直している。

 そして、直ぐに泣きそうな表情に変わった。

 そしてそのまま意識がどこかへ行ってしまったかの様に、脱け殻状態に……。


 私はゆっくりと立ち上がり、茫然自失となっている明日菜の背後に回ると、そっとスマホを覗いた。


「──あ!」


「ひ、ひゃうううう!」

 私が後ろにいる事に気が付いた明日菜は、慌ててスマホの画面を隠す……が時既に遅し、全部見てしまった。


「──王子様と……誰?」

 随分と良さげな所で仲睦まじそうに食事している……デート? デートなのか? そしてそのアングル、盗撮?。


「きょ、きょれは!」

 噛んでる噛んでる、きょれって。


 もうここまで見られたら観念しろと、私は明日菜に洗いざらい話せと迫る。

 相談したいであろう状態の明日菜は、私に渋々話し始めた。


「──な、なんですって!」


「ふえええぇぇ」


「……私が散々言ったのに……」


「ご、ごめ……」


「あの日ゴスロリ着たですって! 私が散々着てくれってお願いしたのに!」


「えええ!? そっち?」


「まあいいわ、ゴスロリは今夜の楽しみにしておくとして」


「……着ないよ?」


「しょ、しょんなああ、あすなちゃわん~~」

 私は明日菜をどさくさに紛れて抱き締めた。


「ちょ、お姉ちゃん!」


「おっといけない、じゅるじゅる、つい……それでその写真を送って来たのがあいつの妹だって事?」


「う、うん」


「本物の妹? 近所の少女にお兄ちゃんとか呼ばさせてる変態とかじゃなく?」

 どっかの変態は彼女にニーニと呼ばせてるらしいし……。


「く、日下部君はそんな事しないもん! 多分……」


「多分かい」


「だ、だって知らないから……まだ……何も…知らない………」


「……そか、そうだよね」

 そう言って落ち込む明日菜……幼なじみと違い明日菜は彼の事を何も知らない、そして何も知って貰えて無い。

 不安だよね……信頼したくても出来ない、信頼して欲しくても、して貰えない。


 でもね、だから恋愛って盛り上がるのよ、だからずっと考えられるの、だから会いたいって思うの……だから抱き締めたいって、抱き締められたいって思うのそしてどんどん知りたいって、知って欲しいって……相手の身も心も全部知りたいって……。


「じゃあ、色々聞いてみなさい、色々知って貰いなさい」


「え?」


「何の為の夏休みよ、相手は部活もしてない暇人でしょ?」


「お姉ちゃん言い方! で、でも……迷惑じゃ、最近何度も会ってるし……」

 

「大丈夫よ、今あの子はあんたが来いって一言言えば喜んで飛んでくるから」

 神様からの呼び出しを断るわけがない。


「そ、そうかなぁ」


「ああ、もう、うかうかしてたらその美人の幼なじみに取られちゃうぞ?!」


「や、やだ!」

 明日菜は慌ててスマホを取り出すと、うーーーーんと考え込み、そして仕事の時の様なスピードでメッセージを打ち込んだ。


「──はううう、だ、大丈夫かなあぁ…………あ!」


 待つこと数分、さすが神からのメッセージ、速攻で返信が来た。

 例えデートの最中でも、今の彼なら速攻で送って来るだろう。


「明日会えるって、お、お姉ちゃん!」


「そか……よかったね」

 ニコニコしながら返事を眺めている明日菜……もう完全に恋する乙女だ。

 でも多分言っても認めないだろう……好きだけど……友達として……とか、私には勿体ないとか言うんだろなあ……。

 

 とりあえずそれは、自分で自覚して貰う事にして……私は明日菜に一つ忠告しておく事にした。


「明日菜……その彼の妹さんの事だけど、なんて言ったら良いんだろ……えっと、その……気を付けてね」


「気を付ける?」


「うん、なんか……怪しいのよね、何か……全部知ってて、その上で明日菜を利用しようとしてる様な……そんな感じがする」

 あくまでも勘なんだけど、でもこの仕事していると、怪しい仕事の依頼があったりする。

 事務所に属していない私は、そんな仕事を受けたりしない様に、いつも注意を払っている。


 だからこういう事には鼻が利くのだ。

 何か臭う、何か感じる……。


 わざわざ明日菜に二人がデートしていた事を、教える意味があるのか?


「利用……って?」


「うーーん、詳しくはわからない……けど、あまり信用しない方がいいかも……ね」


「……うん、わかった、お姉ちゃんの人を見る目って確かだし……気を付ける」


「……ありがと……じゃあご飯食べよっか」


「うん!」


「あと食べ終わったら一緒にお風呂に」


「入らない!」


「ぴえん><)」


 さて、冗談はこの辺で……明日は私も休みだし……前回明日菜に待ち合わせを見張られた仕返しでもするかな? あははは……。


 そして……あわよくば……黒幕に、会えるかも……ね。

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