第65話 私が好きなのは……お兄ちゃんだけ。
相手の事を知りたいって思う事が……恋の始まり。
恋は知識欲の一つだ……相手の事をもっと知りたい、心も身体も、もっと知りたいって思ったら……それは恋。
だから……幼なじみは恋に発展しにくい、知りすぎているから。
そして…………私も……。
幼い頃から一緒にいれば相手の良い所、そして悪い所なんて全部見えてしまう。
人はより良い物を求める。生活、学校、会社、そして恋愛相手も。
悪い所を知ってしまうと、より良い物があるんじゃ無いかと疑ってしまう。
でも実際、次に出会う物が良い物とは限らない。
雪乃さんもお兄ちゃんも、今はそう思っている。
積み重ねた物を壊して、より良いものをそこに添える。そして相手を見返してやるって思うのは、本能だ。
特にお兄ちゃんはそう思った筈……私がそう……思わせた。
でも、一歩引いて考えてみよう、本当にその目の前にいた人は、自分にとって必要としていないのか? ってね。
本当に全部知ってしまったのか? ってね。
雪乃さんとお兄ちゃんは兄妹、家族の様に積み重ねてきた物があった。
私以上に家族として積み上がってしまっていた。
だから我儘を言う、だから嫌々ながらも付き合ってしまう。
人は積み重ねてきた物、積み上げて来た物を壊したく無いから。
だから一度壊した、壊させた。二人で積み上げて来た物を一度バラバラにした。
すると生まれる、疑いや後悔、妬み苦しみ。
でも、全部壊したわけではない、全部壊してしまったら、赤の他人と一緒に鳴ってしまう。ビハインドがなくなってしまう。
そもそも全部壊そうとしても壊れるわけがない。
雪乃さんとお兄ちゃんの関係は全部壊れはしない。それは確信していた。
二人の土台は、基礎はしっかりしている、お互い心の奥底では信頼している。好きでいる。という土台だ。
今まで積み上げていた物は既に限界が来ていた、あのまま積み上げようとしても、ガラガラと崩れてしまう。
歪な関係、他人なのに家族という、歪な関係。
幸いな事に、中学時代雪乃さんは自分の事に没頭していた。
お兄ちゃんとの関係が一時期希薄になっていた。
お兄ちゃんの中で雪乃さんの成長という知識が欠けていた。
だから今回それを突く、雪乃さんの成長を、お兄ちゃんの知らない雪乃さんを見せつける。
◈◈◈
プール行く前日私は今後の事話す為に雪乃さんの家で作戦会議開いていた。
今後の話をしていた私は、雪乃さんに提案する。
「よし! 雪乃さん明日空いてるよね! じゃあ水着で攻めよう」
「ええ?!」
多くは語らない、雪乃さんは頭の良い人だから、私の言った事を鵜呑みにしない。
だからヒントだけ出す。方向だけ示す。
すると雪乃さんは自分で答えを導き出す。
下準備は済んだ、明日から雪乃さんとお兄ちゃんの再構築を始める。
「水着姿を……涼ちゃんに見せるって事?」
「うん、雪乃さんの違う姿を見せるの」
「……違う……姿」
「そしてそのまま夜に、大人っぽい所も見せる……今までと違う雪乃さんをお兄ちゃんに見て貰おうよ」
「今までと……違う私…………うん……そうか……そうだね」
雪乃さんは直ぐに理解してくれた。
うん、やっぱりいい、そういう所……雪乃さんは最高だ。
将来、私の義理の姉になれる素材……素材だけだけど……ね。
◈◈◈
「上手く行った、後は雪乃さん次第かな……」
お兄ちゃんと雪乃さんを二人きりにして、私はホテルを後にする。
着替えがめんどくさいので、そのままの格好でタクシーを拾い自宅に向かう。
あはは、お兄ちゃん……雪乃さんの水着姿にみとれてた……。
雪乃さんもレストランでのお兄ちゃんの所作を見て、同じ様にお兄ちゃんの良さを再認識していた。
作戦通り、二人は意識し始めている。
お互い崩れた物を組み立て始めた。
ただ……お兄ちゃんの視線がチラチラと私に向いていた。
私の悩殺水着に気を取られていた……のでなければ。
多分疑っていたのだろう……私と雪乃さんの関係を、これは何か仕組まれたのでは無いかと……。
「まあ、仕組んだんだけどねえ、ふふふ」
「は?」
運転手さんがチラチラバックミラーで私を見ている。
「いえ……何でもないです~~」
私は視線を反らして窓の外を眺める。
きらびやかなネオン、街の灯りが流れて行く。
私はまた雪乃さんとお兄ちゃんの事に意識を戻す。
あの二人はこのままほっとけば、じわじわ再構築を始める筈。いずれ付き合うだろう。
ただ問題はあいつだ。
あのゴスロリ女と芸能人の二人。
あの二人が気になる。お兄ちゃんとの関係が気になる。
ただのファンじゃない、ただのクラスメイトじゃない。
でも……ふふふ。
「ま、いっか」
お兄ちゃんと付き合うのは大変だ。
特に雪乃さんみたいな負けず嫌いの秀才タイプだと苦労する。
何でもそつなくこなしてしまうお兄ちゃん、中学までならまだいい、普通の学校ならまだ大丈夫だった。
普通の学校でそつなくこなすのと、今の様なトップクラスの学校でそつなくこなすのとでは、天と地くらいの差がある。
多分お兄ちゃんならば、ボーッと授業を聞いてるだけで、それなりの大学に行けてしまう。
雪乃さんはそれに気が付いている。
それでもお兄ちゃんに拘る。
でもお兄ちゃんとまともに付き合えるのって、多分私みたいな人? 天才肌の様な人じゃないと苦労する。
普通の人じゃあ無理……。
「雪乃さんは……苦労するだろうなあ……」
「はい?」
また運転手さんが私の方を見る。
「何でも無いです、あ、この辺で良いです」
とりあえずのんびりしてたら鳶に油揚げって事になりかねない、私はタクシーから降りると、家に入りリビングに向かった。
そのままのソファーにスカートが捲れるのも気にせずドスンと座り込む。
そして徐にスマホを取り出すと、さっきそっと撮ったお兄ちゃんと雪乃さんの写真を画面に出した。
「ちょっと掻き回して探ってみるか……」
私はメッセージソフトを立ち上げると、その写真を添付してメッセージを送る。
「動くかな? 動くよね?」
あの芸能人と会うってのをどこで知ったのか知らないが、それだけで後を着ける様な奴だ、これを送ればきっとお兄ちゃんに会おうとする筈。
あのゴスロリ女がどんな奴か探ってみないとね。
仮に……もし雪乃さんとお兄ちゃんが上手く行かず、お兄ちゃんが雪乃さんを選ばずに、あの芸能人かあのゴスロリ女と付き合う事になれば、そうなったら……まあ、そっちを取り込むだけ。
雪乃さんとお兄ちゃんが付き合えば私が入り込むのが楽ってだけ。
別に私は雪乃さんの事を、そんなに好きなわけじゃない……。
私が好きなのはお兄ちゃんだけだから……。
私は妹……お兄ちゃんの妹……。
お兄ちゃんは私とだけは……一生……離れられないのだから。
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