第62話 明日菜ちゃんピンチ


「まずい、まずい、まずいよ……明日菜ちゃん」

 明日菜ちゃんピンチだ。


 ああでも、もう、可愛い、可愛い過ぎる、恋する明日菜ちゃんは、もう瞳がすっかりハートマークになってた。


「わかりやすいなあ、あの妹は」

 好き好きオーラが出まくってる。


「でも……多分わかって無いだろうな、あの鈍感男は……」

 言ってはいけなかった、自分が本物の綾だと言う事を。

 明日菜自身もわかっていない、本物の綾の正体……。

 でも……多分あの子ならわかったと思う。明日菜が本物だって、明日菜が自分の好きな綾だという事を。

 めんどくさい事になった。

 明日菜のあの好き好きオーラを普通に見てたら、ひょっとして今日告白されてたんじゃないの?

 明日菜はよりによって、綾として会っちゃったから、彼すっかりファンとして好きって勘違いしちゃってる。


「これなら……私の方が付き合う可能性あるよねえ……」

 まあ、そんなつもりはないのだけど……。


 ただのファンならまだ良かった……まあ、ファンと付き合うのも大変なんだけど……でも、あいつはヤバい……綾を神様の様に思っている。


 崇め奉っている。


 つまりどういう事かというと……。


「エッチな事は絶対にしないって事なんだよねえ……」

 もしも明日菜が裸で目の前に立ってても、ひれ伏してしまうって事だ。

 結局恋愛ってそれなんだよねえ、相手に求める求め合う。

 でも彼は捧げる事しかしないだろう、神様に献上する。


 明日菜から差し出された物を彼は受け入れない、畏れ多くて受け止めきれない。

 それでも……神なんだから強引に受け取らせる手もあるけど、明日菜じゃねえ……。


 私は化粧台の前でメイクを落としながらため息をつく。

 昨日キチンと話しておけば……いや、でも……今の状態の明日菜では聞き入れなかったかも知れない。

 妹は妹で頑固な所がある、

 小学生の低学年の時に私が自分の好きな人を取ったといまだに思っている。


 和くんはどっちでも良いって言ったから、そんな奴明日菜となんて駄目と私に誘導して、そして木っ端微塵にしてやった。


 そんなバカと明日菜は付き合わせられない。


 今回もね、もしかしたらあいつがそういう奴なら……私がまた誘導して木っ端微塵にしてやる。


「とりあえず様子見だよねえ……」

 今私が下手に動けば益々あいつは明日菜を綾として認識してしまう。

 明日菜のファンになってしまう。

 

 私が綾として頑張り明日菜の様に振る舞えば……。

 天才明日菜の勝てれば……少しは代わるかも知れない。


「あとは明日菜次第か」

 明日菜も近いうちに気付くだろう、彼が変わってしまった事に……そして、その時明日菜はどうするか?

 諦める? 泣いてすがる? 強制力を発揮させる?

 

 なんせよ、私が言っては意味がない、自分で気付かなくては。

 そして自分で判断しなければ……。


「そうしないと……諦めきれないからね……」

 私は明日菜が大好き……明日菜の幸せを……いつも願っている。

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