第35話 妹の王子様
妹には悪い事をしているって思ってる。
私のせいで人前を素顔で歩けなくなってしまった。
小学生の時、私達は顔の痣のせいで虐めにあった。
まあ、私はこんな性格なので相手にしなかったが、妹はかなり心に傷を追ってしまう。
父がいた頃は、うちはそれなりにお金があった為にか、私達兄妹は女子大付属の小学校に入学する……でも妹は馴染めずに別の中学を受験した。
私も一緒に行きたかったけど、まあ、妹と違い勉強が出来なかったから……妹が私に合わせてレベルを落として学校に行くのは私としても不本意だった……。
虐めのせいでか……小学生の頃から妹は勉強と読書ばかりの生活になる。
私はどっちも苦手、だから妹の邪魔にならない様に、妹から離れちょくちょく外出していた。
そしてそこで……読者モデルとしてスカウトされる事になる。
モデルとして仕事する事を母に相談したが最初は駄目だと言われた。
でも、明日菜とは違う、私は勉強出来ないんだから、という後ろ向きな理由で押しきり、仕事をするようになった。
そんな理由だったから、勿論明日菜には内緒で仕事をしていた。
でも、私と明日菜は同じ顔……バレるのは時間の問題だった。
明日菜は私に勘違いされたその日以来顔を隠して生活する様になる。
私も出来るだけ普段とは違う髪型、化粧で仕事をして誤魔化した。
でも、明日菜は下を向いたままだった。私の為に、綾の為に……そして自分の為に。
そのせいで、明日菜はずっと俯いて学校に行っている。
……だからせめて綾ってキャラで、明日菜に顔をあげさせたかった。
俯いてばかりいる明日菜に前を向かせたかった。
お母さんには悪いけど、お母さんが倒れたおかげでそれは上手くいった。
でも、普段の明日菜は益々下を向いてしまう。読書に逃げてしまう。
私はどうにかしようとずっと悩んでいた。
でも、そんなある日、明日菜がウキウキした表情で学校から帰ってきた。
今までにない表情……私はしつこく聞いた。すると……学校で同じ趣味の男の子に声を掛けられたと……。
そんな程度で……とは思ったが、明日菜のその態度はそれからも続いた。
私は……大好きな妹がどんな奴にそそのかされたのか? ひょっとしたら、明日菜の素顔でも見たのか? と、居ても立っても居られなくなり、明日菜に仕事を押し付けて、明日菜の学校に明日菜に化けて行った。
そこで会ったのがこの目の前にいる男の子だった。
始めて見たイメージは……暗い? 何かひねくれている? あとクラスではなんとなく放置されている雰囲気。
ボッチ同士なのか? そして何かジロジロこっちを見ていてストーカー気質も感じた。
明日菜の性格上、当然私が周りから聞くことは出来ない。
だから彼の詳しい事は、それ以上わからなかった。
でも、その後、海で偶然に会って、そして怪我をしている私の足の手当てをしてくれた。
そこで……あ、こいつ良い奴かも……って思っった。
水着の私を見て見ぬ振りをして、ファンだと言うのにそんな目で見ない様にしながら、手当てをしてくれた彼に、私は誠実さを感じた。
少なくとも軽い感じではない……でも、だからこそ、明日奈とは慎重に進めないと。
奥手同士、でも共に経験不足で考えが古く重い……エッチなんかしちゃったら即結婚とか言い出しそうな二人。
ただ逆にいうと……奥手過ぎていつまでも友達でいそうな気もする。
とにかく私の大事な明日菜ちゃんを任せられるか、私は姉としてそれを見極めなければならない。
もし……もしも彼が本当は遊び人で、例えば……他に彼女なんかいて、明日菜ちゃんに手を出そうもんなら……。
私はどんな事をしてでも彼から明日菜ちゃんを守る。
そうね……例えば綾と付き合えるかも? なんて彼に思わせて、明日菜を諦めさせるとか?
私が彼と付き合う振り……いや、彼なんていた事ないけど……。
「あの? 綾さん、何をニコニコと?」
「へ? 笑ってた?」
「笑ってたかと聞かれると微妙というか、ニヤニヤしていたというか……」
ヤバイ彼が引いてる……。
「あと……なんか綾さんのその笑い方が、どうにも俺の知り合いに似ている気が……」
「あ、ああああ! もうこんな時間だわ、行かないと!」
「えええ? そ、そんな突然、まあ忙しいんでしょうけど」
「そうね、そうよ、私は忙しいの! じゃ、じゃあ今日はありがとう!」
「あ、はい……またお会い出来て光栄です」
「……そうだ、何かお礼を……」
「ああ、良いんです、一緒に居られて嬉しかった、それが既にお礼なので……」
彼はそう言って笑った。その笑顔を見て……私は思わず言った。
「えっと……じゃあ、【らいん】交換しよっか?」
「……え? ええええええ?」
「やってない?」
「あ、いえ、やってますけど」
「じゃあ……ほい」
「本当に? 良いんですか?」
「嫌ならいいけど?」
「し、します!」
彼はスマホを取り出しぎこちなく登録する。
「じゃあ、またね」
私はそう言って席を立つ。
彼は少し寂しそうな顔で私に向かって微笑んだ。
「あ、その……ありがとうございます」
「……何が?」
「いえ、言いたかっただけです……その……お礼を……」
「…………ふふ、どういたしまして」
ファンとして、綾に幻想を抱いている。私にではなく綾と言うキャラに……私はそう理解した。
彼は綾の為ならなんでもする。そう思った。
「じゃあ……ね」
私はそう言って、その場を後にする。
彼の視線を後ろに感じながら、足早にその場を去る。
彼は危うい……綾というキャラに依存し過ぎている。
最後のお礼で私はそう思った。
そして、私はそんな彼の思いを知って……少しだけ優越感に浸ってしまった。
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