第4話 綾波明日菜は友達がいない?

 席替えから一週間が経った。

 俺はその間、隣の綾波をずっと見ていた。


 彼女の1日は席に座って本を読む事から始まる。

 

 そして、授業の合間に隠れて本を読み、休み時間にこっそり本を読み、お昼に弁当を食べながら本を読み、午後の授業でも……。


 とにかく一日中本を読んでいる。とにかく本を読んでいる。ずっと……本を読んでいる。

 呆れる程に……。

 彼女は常に下を向き、誰とも目を合わせない、必要以上の会話……いや、必要な会話も殆どしない。


「──なんだこいつ……?」

 ついついそう呟いてしまう。 こんな奴今まで見た事がなかったから……。


 目立ちたくない? 陰キャによくある考え方だが、まわりに溶け込まないと逆に目立つ。

 だから、完全なボッチにはなるべくならない様にするのが鉄則なのだ。

 でもそんな綾波の行動は、逆に目立つ様な気がする……するのだが、これが見事に気配を消している。

 現に俺は彼女の存在を1ヶ月以上認識していなかったのだ。

 

 そして、綾波を隣でチラチラと見ていると、隠れオタクである俺は、良くあるパターンを考えた。

 ひょっとして綾波は眼鏡を外し髪を整えたら可愛くなパターンなのでは? スタイルは良さそうだし、肌も綺麗だ。

 磨けば光る? 冴えない彼女を俺が育てちゃう? なんて想像をした。

 だがいかんせんそんな状態、そんな状況、とにかく下を向いて常に本を読んでいる。彼女どころか友達になるのにも困難を極めるだろう。

 

 そう……彼女は綾波は誰とも話さないのだ。

 

 それどころか、外面を全く気にしないのだ。 彼女は自分のしたい事をしている様だった。


 雪乃と正反対だ……。


 陰キャと思っていたが、そう言うのとはちょっと部類が違う気がした。

 

 彼女は常に楽しげにしているのだ。

 彼女からボッチでいる事の悲壮感は伝わって来ない。

 

 やりたくてやっている? 周りを気にしない? 


 不思議な奴だって思った……雪乃とは全く違う。


 そして……もっと重大な事が判明した。

 それは……。


 俺はそんな彼女に少しずつ興味を抱き、何度か接触を試みようとした……したのだが……。


 どう声をかけて良いかわからない……よくよく考えたら、俺は雪乃以外の女子と殆ど絡んだ事は無い。

 ここでまた、俺は幼馴染みの呪縛に阻まれる。


 一から関係を築くと言う事を今までやった事が無い、特に女子と仲良くなろうって思う事さえなかった俺は……綾波にどう声をかけて良いのかわからなかった。


 何が高校に入ったら彼女を作ろうだ……何が雪乃を見返してやろうだ。


 彼女どころか友達さえも作れない……話しかける事もまともに出来ない。


 駄目だ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃ……。


 俺はなんとか、綾波に接触するために、なんとか綾波と話す為に、色々考えそして……勇気を出し言った。


「あ、えっとすみません……消しゴム貸してくれません?」

 俺がそう言うと綾波は読んでいる本から目線を逸らす事なく、黙って俺の机に消しゴムを置いた。


 やったぜ、どうだ! 初接触したぜ! 成功だ!


 あううううう……。




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