第5話 渡せないお土産

「さあ次は~~あやぽんの愛称でお馴染みの、モデルでトップインフルエンサーの、綾さんです~~」


「──どうも~~」

 あやぽんは、腰にリボンが巻かれたいかりの様な柄のワンピースを着ている。髪はなんと本日は金髪のポニーテール、あやぽんは毎回髪の色や髪型を変えて来る。服に合わせているらしい。

 

 あやぽんはいつもの様にアルカイックスマイルで、舞台の袖から颯爽と現れた。


 そして司会者お姉さんの隣に立つと、いつもの様な控えめな笑顔で手を振る。

 その姿を久々に生で見れて、俺の胸が熱くなる。


 今日は某ブランドの新作発表会。

 公開という形があまり無いので、こうやって直接あやぽんを見れる機会は滅多に無い。

 

「「あやぽーーーん」」

 歓声が上がる度に照れくさそうに笑い手を振る姿に、俺の胸が締め付けられる。

 ああ、可愛い、愛しい……俺の……あやぽん。

 女子ばかりの会場なので俺は一番後ろから遠くのあやぽんを眺めている。


 でもこうやって遠くで見れるだけで幸せだ。


 近付く事の許されない、高貴な人を遠くからひっそり眺めている様な、貴族と召し使い、いや、王女と庭師の様な関係を想像し、一人涙ぐむ俺……。


 うん気持ち悪いよね? 知ってる……だって隣の女子が俺を見てひいてるもん……。


 俺は新幹線で二時間程かけてこの場に駆け付けた。

 勿論学校をサボってここに来ている。


 あやぽんの為なら、留年も辞さない!


 まあ、それほどこういった機会は無いのだけど……。


 司会のお姉さんから数件の質問を無難に答えるあやぽん。

 勿論プライベート的な話は殆ど無い。


 唯一の収穫は、あやぽんの好きな男性のタイプは誠実な人らしい。

 それを聞けただけで俺は満足だ。明日から俺は誠実に生きようと心に誓った。


 あやぽんの出番が終わればもう用はない、俺はさっさと会場を後にする。

 

 あやぽんに会いに来ただけとはいえ、さすがにこのまま帰るのは勿体ないと、俺は駅周辺をうろうろし土産物屋なんかを物色する。以前はこういう時、渡せもしないのに雪乃へのお土産を探していた。


 家にはその渡せなかった雪乃へのお土産が結構ある。


 雪乃は猫好きで、子供の頃はよく一緒に近所の猫を飼っている家に行き、触りに行ったりしていた。

 なのでお土産はいつも猫関連のグッズ、今もついついそう行った物に目が行ってしまう。


 8年、思い続けて8年目、いや、今はもう思っていないんだけど、でも……それでも中々雪乃を忘れられない自分に、猫グッズに目が行ってしまう自分の行動に少しイラっとしてしまう。

 

「お土産を渡せる相手でも居ればなあ……」

 どうせ渡せないのだから、誰でもいい。

 あやぽんに渡す機会何て無い……事務所に送るって手もあるけど……。

 

 何て思っていたらふと頭に浮かんだ人物が……。


「──は?」

 俺は驚いてしまう。何故か俺の頭に、クラスで隣に座る綾波の姿が浮かんで来た。


「いやいや……無いだろ?」

 どうせ渡せないなら他の女子を思い浮かべろよ! と自分に突っ込んでしまう。

 「でも……綾波と言ったら……本だよなあ……」

 

 どんな本を読んでいるんだろうか? チラチラと見ているけど、よくわからない。

 ただチラリと絵が見えたので、漫画かラノベだと思うが……。

 栞何て渡したら喜ぶかなあ……? ──って、何で俺は綾波へのお土産を探しているんだ?


 気になっている……確かに俺は綾波の事が気になっている。

 でも、好きなわけでは決してない。

 じゃあこの感情は何か? と聞かれると、俺は答えに詰まる。


 昨日も何度か話かけようと試みたが、結局綾波は俺の顔を見る事は無かった。

 多分俺は悔しいのだ。俺が話しかけても無反応な彼女に……。


 考えに考えた挙げ句俺は栞を買った。

 和紙で作られた栞、紙に四つ葉のクローバーが封印されている可愛い栞。


「またあげられぬ物を買ってしまった……」

 でも……こういうのって凄く楽しい……俺の唯一の趣味と言っていい。

 好きな人の事を考えて、選ぶって事が凄く楽しい…………好きな人?


 いやいや違う、ないない……これはそう言うんじゃ無い……。


 ただ……あいつにこっちを見て欲しいだけ……。

 あいつに反応して欲しいだけ……。


 俺は栞を買い、新幹線のホームに向かった。


 なんだろう……わくわくする。あげもしないお土産を買っただけなのに……。

 色々と想像出来る、妄想出来る、空想出来る。雪乃にずっとしていた妄想……。

 相手が綾波ってのがちょっとあれだけど……。

 

「……あれ?」

 ホームに到着すると、俺の乗る一本前の新幹線が丁度発車した。

 そして、俺の目の前の窓に……金髪の美少女がって……あやぽん!

 

 ゆっくりと発車していく新幹線……あやぽんはうつ向き本を読んでいた。

「わーーーーわーーーー」

 俺は思わず声を出す、こんなに間近で見れる何て、ラッキーだ!

 あっという間に加速し、俺の視界から消えていく新幹線を俺は見続けていた。

 一瞬の出来事……ああ、幸せ……。

 そして少し後悔する。

 お土産を買わなかったら同じ新幹線に乗れたのに……と。

 まあ、でも……席の場所が近く無かったら気付きもしないのだから、これで良いのかと……。


 そして、そのおかげで重大な事実が一つ判明した。


「あやぽん……東京にいるんだ……」

 今行った新幹線は東京まで止まらない、まあ、仕事の可能性もあるけれど、そんな事はツイートしていなかったので、恐らくは自宅に帰って行ったと思われ。


「そうか……じゃあ……また……偶然会えるかも」

 何て嬉しい気持ちになる。そして俺はさっきのあやぽんの姿をもう一度思い出していた。

 あんなに近くにあやぽんが……でも……なんかどこかで見た様な……そんな気がしていた。

「デジャブ?」

 どこかで……見た様な……どこかで……。 

 

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