just to see

 もう一度だけ秋人を見た。秋人は浴衣を着て来なかった。私だけ準備したから、なんだか恥ずかしいように思う。まあ、いいか。遠くの花火がよく見えるこの公園には私と秋人の二人しかいない。


「この前に化学の先生が言ってたでしょ。炎色反応だよ。花火の色は発色剤に使われている金属粉がその種類によってそれぞれの色で燃えることで、いろんな種類の花火が見えるわけ」

「よく覚えてるな。そんなこと言ってたような気もするけど、化学はどうしても眠たくって……」

「秋人ってば、授業はしっかり受けなきゃだめだよ」

「まあいいじゃん。前の補修も何とか回避できたから今こうして花火見れてるわけだし、俺うれしいよ」


 私もうれしいと言えるほど、距離が近いわけではなかった。彼の好きを引き出すためならなんだって用意したかった。さっきの炎色反応だって、花火を見るときに何か話すことがないか調べてきたものの一つだった。……好きな人との話題にしては固すぎるかな? 女の子らしい話の一つもできない自分を思うと残念な気持ちになる。


「残念、花火はもう終わったみたいだな。綺麗だったし来年も楽しみだ」

「来年もあるといいね」


 花火が美しく散った夜空を、秋人は無言で眺めている。私の「行こっか」という言葉にも振り返らないで、ずっと宙を向く姿がなぜか印象的に見える。秋人は「なあ」と切り出した。


「花火大会は来年もある。ちょうど一年後かな。でも、その前には俺たちは中学を卒業する。だから、美冬と俺がちょうど一年後の今日にこうして花火を見ているとは限らない」


 秋人の目が私を惹きつけて止まなかった。


「それでも、俺は来年も美冬と花火が見たい。その次も、十年後も、二十年後も……正直に言おう、この際花火かどうかなんてどうでもいい。ただずっと一緒にいたい、それだけでいい」


 彼は片膝を地につけて、右腕を私のほうに差し出した。


「ずっとそばにいてほしい。俺と付き合ってください」

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