後編 生き返る。


 目が覚めた。白い天井だった。首を動かし周りを確認する。病室の様だった。首元に触れる。金属のひんやりとした感触があった。


「死んで……ないか」少し落胆する。


 意識を失う前の体調の悪さはきれいさっぱり消えていた。それどころが、一度死んで生まれ変わったような感覚がある。うまく表現できないけれど。


「スロエ様、お目覚めですね」私の名前を呼び、入ってきたのは看護用アンドロイド、のはずだ。首に細胞供給装置が付いていないのでそれでぎりぎり見分けがつく。他の外見の部分は人と全て同じにしか見えない。金髪のショートヘアでそれなりに美人だった。私の好みだ。


「体調はどうですか?」声も人そっくりで聞き分けがつかない。声質が無感情なのでわかりやすいけれど。


 また、人で働いている人は滅多におらず、だいたいがアンドロイドやロボットの人工物だ。


「絶好調、かしらね」私は起きあがって伸びをしてみせる。


「それはよかったです。念のため診断しますね」


「ええ、おねがい」私は白い患者服を脱ぐ。


(こんなに大きかったかしら?)私は自身の胸を見下ろしながらそんな感想を抱く。


 元々大きめのバストにしていたが、前見たときより一回り大きくなっていたように感じる。


「触診で失礼させていただきます」彼女(という表現が正しいのだろうか)は手を光らせてセンサーを起動する。


「では、顔から失礼します」両手で頬を包み、ゆっくりと下になぞっていく。ほのかに暖かさを感じる。


「……んぅっ」胸の頂点を撫でられ、思わず艶声がでてしまう。


「どうしました? 外傷も、内部損傷もないようですが、いたみますか」彼女はもう一度頂点を優しくなぞる。


「んううっ! そこはけっこう感じるのよ」


「そうですか。すみません、察しが悪くて」彼女はいう。もうちょっと恥じらいを持って謝ってほしい。アンドロイドに求める事でもないが。


「かまわないわ。続けていいわよ」


「他に気持ち良かったり、感じる部分はありませんか。そこはあまり触れないようにしますので」


「……股の部分ぐらいかしら」むしろ触ってほしくもあったが、正直に答えることにする。


(そういえば、しばらくしていないな)触診を続けられながら、思い出す。前に人を抱いたのは二週間程前だっただろうか。私は性欲旺盛だった。不死になる前からそうだった。


「終了です。汚染の影響はなさそうですね」足先まで触診を終えた彼女はそう告げる。


「それはよかったわ、とても。……汚染?」


「はい。放射能による汚染です。細胞が崩壊していたので緊急に置換措置を行いました」


「細胞を取り替えたの? 全身?」


「はい。スロエ様はとても強い放射能を浴び、ほとんど全身の細胞が崩壊を起こしていたので」


 なるほど、それで生まれ変わったように感じたのかもしれなかった。


「また、以前の診断データを元に置換措置を行いましたので少し身体のサイズが変わっています」


「ああ道理で。こんなに大きくなかったもの」自分の胸を両手で包みながら言う。


 以前、を抱くためにサイズを大きくした事があった。その方が相手が喜ぶし、挟むこともできたからだ。そしてその時、診断もした記憶があった。


 しかしその後、大きいと重くて動きづらく、無駄に肩が凝るので小さくした。


「放射能……」その単語はどこかで聞いた事があった。少し考え、一つの答えに行き着く。


「……核? 確かそんな爆弾があったわよね?」私は彼女に尋ねる。


「……」アンドロイドは口をつぐむ。


「核爆発が起こって、その後私が近づいて放射能を浴びたってこと?」


「すみません。その質問には答えられません。伝えられるのはスロエ様が放射能により体調を崩した事です」


「答えられない?」どういう事だろう。核という言葉に関しては情報がないのだろうか。


 意識を失う前の記憶をたどる。裸の細胞供給装置が二つあった。


「あの爆発は誰かが自殺を図ったの?」質問を少し変えてみる。大方予測は付いていたが、確認も兼ね、聞いてみる。


「それ以上質問すると、スロエ様の身に危険が及びます。やめることをお勧めいたします」かたくなに彼女は答えなかった。なにかしらの機密らしい。


「……わかったわ。とりあえず私は健康なのね?」それ以上聞くことはあきらめる。好奇心のために今身を危険にさらす必要もない。


「はい、問題ありません」


「ありがとう。……最後に一つ、あなたについて、訊ねて良いかしら」私は片手で彼女の頬に触れる。ひんやりと冷たいが、しっとりと柔らかい。


「はい。答えられる事であれば」


「性処理機能はある?」私は胸を触られた事もあり、性を発散させたい気分になっていた。


「すみません、私は医療用ですのでそのような機能はついておりません」頭を下げ、彼女は謝る。


「でしょうね、残念だわ。あなたの顔、けっこう好みだったのに」


「もうしわけありません。……もしよろしければ私と同フェイスタイプの性処理型を探しましょうか?」


「……いいえ、そこまでしてもらわなくてもいいわ」別に相手はアンドロイドでなくても良かった。手軽に道具で慰めてもよいし、少し遠出して生身の人間を探しに行ってもいいかもしれない。


 決めた。病院を出たら性欲を発散させにいこう。今日はそんな気分だ。生まれ変わった記念にたっぷり楽しもう。


 ……そうだ、後であの爆発について調べよう。彼女たちはどのようにして死を手に入れたのか、気になるし。


「じゃあ、またいつか」私は軽く彼女にキスをして、病室を後にする。

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