2章 セリエンス迷宮<ダンジョン>
第25話 埋葬
ビートダッシュを出たイゼルたちは、ガーレイ大森林の中を歩いていた。
セリエンスに直行するなら崖沿いを進んでいけば良いのだが、イゼルのとある願いから一度森の中へと入っている。
「すいません、わがままを言って……」
「なに、気にするな。森の様子も気になっていたし、ちょうど良い」
「……そうだよ。私も行ってみたかったし」
レーティアはフッと微笑むと、イゼルの頭を優しく撫でた。
途中野営で一泊しつつ森の中を進んでいき、目的地へと到着した一行。
目の前に立派にそびえたつ大樹にジレグートは感心し、リリスも「ここが……」と声を漏らす。
「お久しぶりです。今日はお願いがあってきました」
イゼルは以前寝床にさせてもらっていた大樹にぺこりと頭を下げると、事情を説明し始めた。
「僕にとても良くしてくれた方……その方のお墓を作りたいんです。あなたのようにとても立派な方だったので、ぜひあなたの下で眠らせてあげてもらえないでしょうか」
今度はしっかりと頭を下げるイゼル。
リリスはその後姿を見て、フフッと嬉しそうに微笑むとイゼルへと近寄った。
「……大丈夫だよ、イゼル。レーティア、お願いできる?」
「ああ、わかった。ジレグート、少し食料を確保していきたい。ここはイゼルたちだけで十分だろうから、手伝ってくれないか?」
「……ああ、かまわねぇぜ。」
ジレグートはしばしイゼルたちを見つめたあと、そう返事をするとレーティアと共に森の中へと消えていった。
「……近くに穴を掘ると、根を傷つけちゃうかもしれない。樹洞の中に安置しておけばいいよ」
「そうですね。でも、荒らされないでしょうか?」
「……そこは任せてって言ってる」
どういうことだろう? とイゼルは疑問に思いつつ、言われた通りに設置していった蓋をはずして、中で
イゼルが再び蓋をし直すと、リリスが大樹に触れて聞きなれない言語で何かを唱える。
「……*************」
大樹の幹が淡く緑色に輝くと同時、蓋を覆うように幹が侵食していき、樹洞があった場所は何の変哲もない幹になった。
「すごいですね……! これもリリスさんの力なんですか?!」
興奮した様子で問いかけるイゼルに、リリスは首を振った。
「……この子がイゼルの願いを聞き届けるために、私の魔力を使って自らしてくれた。私は言葉を聞き届けただけ」
「なるほど……?」
首を傾げたイゼルに、リリスは少し悩んだあと口を開く。
「……エルフは木の精霊と会話ができる。それは封印時であっても変わらない。ただ、私は忌み子だから精霊から嫌われてる。でも、今回はこの子がイゼルのために我慢して頑張ってくれた」
「……そうなんですね。重ね重ね、ありがとうございます。オークエンペラーさんを宜しくお願いします」
大樹に向かい、深くお辞儀をするイゼル。
しばらくして頭を上げると、リリスにも頭を下げた。
「リリスさんも、ありがとうございました! つらい話をさせてしまい、すいません。でも、話してくれて嬉しかったです」
嬉しそうに笑ったイゼルを見て、リリスはぐっと拳を握る。
「……イゼルは、気持ち悪くないの? 私は忌み子なんだよ?」
「気持ち悪くなんてないです。リリスさんはリリスさんですから! 僕やレーティアさんのことを心の底から心配してくれて、自らの危険も顧みず森の中に飛び込んでくれて。そんな優しいリリスさんが、気持ち悪いわけないじゃないですか!」
真剣な表情と瞳で気持ちを伝えるイゼルに、我慢できず飛び込んだリリス。
二人の身長はほぼ同じくらいのため、正面から抱き着いたリリスはイゼルの肩口に顔をうずめるようにして、小さく嗚咽を漏らす。
しばらくして落ち着いたリリスが名残惜しそうに離れると、ぐいっと目元を拭った。
「……ありがと、もう大丈夫。……イゼルに出会えて良かった。イゼルのおかげで、私は初めてこれまで生きてきて良かった。生きてても良いんだって思えた」
「僕もリリスさんと出会えて、本当に良かったです。まだ僕たちの冒険は始まったばかりですが、いつか……いつか、大勢の人から感謝されるような。みんなに認めてもらえるような、そんな冒険者に一緒になりましょうね!」
にこりと優しく微笑んだイゼルに、こくりと頷き笑顔を返すリリス。
その表情はとても晴れやかで、とても眩しかった。
しばらくしてジレグートと共に戻ってきたレーティアは、二人の様子を見ると嬉しそうに笑みを零す。
「食料は確保できたぞ。……そろそろ行こうか」
ジレグートも黙って頷くと、一向は再びセリエンスに向かい進路を取った。
時折遭遇する
そこからはひたすら一本道で、イゼルたちは陽が暮れる少し前にセリエンスにたどり着くことができた。
「わぁ、立派な門ですね……」
イゼルが感動して思わず言葉を零す。
迷宮都市セリエンスは左右にそびえたつ高い崖を利用し、一本道を塞ぐように高い壁が築かれている。
壁の中央には高さ5mはあろうかという巨大な門があり、その前で騎士風の男たちが検問をしていた。
イゼルたちもすでに数十人ほど並んでいる列の最後尾に移動し、順番を待った。
「セリエンスへようこそ。冒険者の方ですか?」
「ああ、迷宮に挑戦しようかと思ってな」
十分ほどでイゼルたちの番になり、騎士風の男が笑顔で対応すると、レーティアが返事をする。
「そうですか。では、冒険者プレートをお願いします」
イゼルたちはそれぞれプレートを外して手渡すと、騎士風の男は検問所に置かれた台座にプレートをかざしていく。
全てかざし終わると、プレートを返却した。
「ありがとうございました。余計なお世話かもしれませんが、今は
「忠告感謝する。ダンジョンから魔物が溢れかえる前に
レーティアの言葉に騎士風の男が宜しくお願いしますと声をかけ、見送ってくれる。
そうしてイゼルたちがセリエンスに足を踏み入ると、街の中は活気で溢れていた。
門から伸びるメインストリート。左右に隙間なく立ち並ぶ商店。往来する多くの人々。
まるでお祭りでもしているかのような喧騒に、イゼルたちはそれぞれ別の反応を示した。
「すごいですね! 人がたくさんいますよ! みなさん冒険者なんですかね?!」
「
「……人多すぎ」
「お、綺麗なねーちゃんが多いな。これは夜の店も期待できそうだ」
イゼルは目を輝かせ、レーティアは驚き、リリスは顔をしかめ、ジレグートは楽しそうに笑う。
門の前で長時間立ち止まるのもよくないと移動し始めた四人は、雑踏に紛れて街の様子を観察しつつ、冒険者ギルドへと足を運ぶ。
セリエンスの冒険者ギルドは、ビートダッシュのものよりも立派な建物だった。
石造りの二階建てで、扉をくぐっても騒がしくない。
「あれ? ここは酒場はないんですね」
室内をキョロキョロと覗っていたイゼルが、不思議そうに呟く。
「ああ。ここは冒険者の数が多いから、酒場は併設されてないんだ。両隣の建物がどちらも酒場なんだよ」
「そうなんですね。ギルドは全てあんな感じなんだろうなと思ってたので、ちょっとビックリしました」
イゼルが納得したのを確認したレーティアは、空いている窓口へと移動。
真面目そうな印象を受ける大きな眼鏡をかけた受付嬢が、イゼルたちに気づくとぎこちない笑顔を向けた―――。
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