第23話 新しい仲間
イゼルたちがパーティーを組んだ二日後。
ジレグートから武器が仕上がったと連絡を受けた三人は、朝早くからビートダッシュを出る準備を進め、準備を終えるとジレグートの家へと向かった。
「おう、来たか。ちっと立て込んでてな、すぐ済むから少し外で待っててくれ」
玄関の扉を開けたジレグートはそう告げると、再び室内に戻っていく。
イゼルたちは首を傾げた後、ひとまずジレグートの言葉に従い家の前で待つこといくばくか。
ジレグートの家から本人ともう一人、身なりの良い男が出てきた。
「じゃあ、あとはよろしく頼む」
ジレグートの言葉に一礼した男が去っていくと、入れ替わるようにレーティアが近づく。
「さっきのやつは商人か?」
去っていった男の後姿を見ていたレーティアが問いかけると、こくりと頷くジレグート。
「ああ、最近この町に来たやつらしい。この町で商売するにあたって、事務所代わりにできる物件を探してるって話だったから、買い取ってもらったんだ」
「ん? お前この町を出ることにしたのか?」
「あ? おめぇらについてくんだよ。この町を出んだろ?」
「……は?」
呆けた顔をするレーティア。
「おめぇらの武器を全て整備できるヤツなんか早々いねぇ。ならオレっちが一緒じゃねぇと困んだろ?」
「……で、本音は?」
ジレグートの言葉が建前だと見破ったレーティアが、目を細めて問い詰める。
「……チッ。なんて言えばいいのかわからんが、おめぇらがこれからどうなっていくのか……それを見届けてぇなと思っちまったんだよ」
そう言って、チラリとイゼルを見るジレグート。
イゼルと出会ってから、レーティアとリリスは良い方向へ変わりつつある。それを間近で感じていたジレグートは、もしかしたらこいつらといれば何かすげぇものが見れるんじゃないか、そう思ったのだ。
「……せっかくの評判回復計画が台無し」
「まったくだな。だいたい、誰が同行を許可したんだ?」
冷たい視線を送る二人に、肩を竦めるジレグート。
「つれねぇこと言うんじゃねぇよ。おめぇらは今後鍛冶師の心配をしなくて良い。オレっちはいろんな場所で見分を広められる。Win-Winじゃねぇか」
「そうですよ! それに、ジレグートさんがいてくれたら心強いです!」
にっこり笑うイゼルにレーティアたちがやれやれと首を振ると、四人は家の中へと入っていく。
すでに鍛冶台の上にはいくつかの武具が並べられていた。
「まずはこいつだな。刀のほうは研ぎなおして調整してある。鞘は今までのやつを踏襲しつつ、強度を大幅に上げたから使える幅が広がるはずだ。確認してみてくれ」
刀を受け取ったレーティアは鞘から抜くと、美しい波紋が目に入る。
鞘は今までの黒一色から濃い紫色へと変更され、非常に軽いのに叩くと金属みたいな音がした。
少し離れたところで軽く素振りをすると、満足そうに微笑むレーティア。
「凄いな、今までよりもさらに振りやすい」
「バランスやらなにやら、今のアンタに合わせたからな。ほんで次がこれだ」
そう言って前に出したのは、小刀と短剣、それにクナイが30本。
「……私、頼んでないけど?」
「冒険者としてついてくって決めたんだろ? なら必要なはずだ。オレっちは旅の途中で誰かが欠けるとか、そーゆーのは嫌いなんだ。だから、出来うる限り準備はしときてぇ」
「……この借りは必ず返す」
リリスは少し考え込んだ後、ぐっと拳を握りしめて呟くとそれぞれの持ち具合を確認。
クナイを腰の
「で、イゼル……おめぇのは正直言って、どうして良いかわからなかった。だから、とりあえず今まで通りクセのないシンプルな片手直剣とナイフを二本、それから練習用のおまけを準備した。あとはおめぇと行動しながら、適宜見極めていきてぇ」
そう言って、片手剣を二本とナイフを二本渡したジレグート。
まだ自分の武器や戦闘スタイルを確立していないイゼル。
その段階でこれだと決めつけたくないジレグートは、あえて基本である片手剣での戦闘を見ることで、どの武器が合いそうかなどを判断するつもりだった。
イゼルも片手剣は使っていて扱いやすいと感じていたので、笑顔で受け取るとお礼を告げて武器の確認をする。
「わぁ、一本は刃が少し黒っぽいんですね。かっこいいです!」
一本は普通の片手剣だったが、もう一本は鞘から抜かれた刃は鈍く黒光りしていて、一般的な金属製の武器の特徴である銀色よりもかなりくすんでいた。
「これは……魔剣か? それにしては色が薄いな」
興味深そうにイゼルの剣を覗き込むレーティア。
それはリリスも同様のようで、無言でじっと剣を見つめていた。
一般的な魔剣――鍛える際に魔核を混ぜ込むことで魔力を宿した武器は、付与された魔核の属性に応じて色が変わる。火属性ならば赤く、水属性ならば青く、といった具合に。
「半分正解ってとこだな。これは魔剣だが魔剣じゃねぇ。属性は付与してないからな。
イゼルはジレグートに言われた通り、刀を思い浮かべながら魔力を流す。
すると、手にもっていた片手剣が刀の形へと変化した。
「すごいです!!」
大はしゃぎするイゼルに、驚いて固まるレーティアとリリス。
それぞれの反応を見て満足そうに腹を抱えて笑ったジレグートは、落ち着くと説明を始めた。
「おもしれぇだろ? これならいろんな武器を試せるから、自分に合った獲物を探しやすいと思うぜ。ただ、こんな面白能力をつけたからな、欠点も多い。大きな問題は二つ。アイアンゴーレムの魔核で強度を上げてあるとは言え、片手剣の状態でも量産品の武器よりちっと高いくらいの強度しかないってのが一つ目。もう一つは、質量は変化しねぇってとこだ。変化先がでかくなればなるほど、比例して強度は落ちていくからな。あくまでこれは練習用で、自分にあった武器を探すためのものだってことを忘れるなよ?」
念を押すように真剣な表情で告げるジレグート。
イゼルはこくりと頷くと、通常の片手剣を左の腰に。半魔剣を背中に背負い、ナイフを一本腰の後ろ側に帯刀して、一本はポーチにしまい込んだ。
「おい、こう言っては何だが本当に良いのか? 練習用とはいえ、魔剣に類するものならかなりの金額になるだろう。とてもじゃないが、私たちの手持ちじゃ払えないぞ?」
「あぁん? 良いんだよ、んなのは。まぁどうしてもって言うなら、出世払いとしといてやらぁ。頼まれたもん以外のやつは、オレっちが勝手にやっただけだからな」
気恥ずかしそうに鼻を指でこすり、ケッとそっぽを向くジレグート。
レーティアは小さな声でぼそりと「相変わらず不器用なやつだな……」と呟くと、金貨一枚を投げ渡した。
「……さて、準備は整ったな。私たちはセリエンスに向かうが、お前もそれで良いのか?」
「ああ、行先はどこでもかまわねぇぜ。街なら工房を借りりゃ武器も作れるし、そうでないとこでも整備くらいはできる。セリエンスなら迷宮産の素材が落ちりゃ新しい防具なんかも作れるかもしれねぇな」
「なら決まりだな。家を売ると言っていたが、どれくらいで終わるんだ?」
「もう終わってるよ。おめぇさんたちに渡すもんと、オレっちがもっていくもの以外は全部買い取ってもらったからな。すぐ出れる」
そう言って奥の部屋へ向かうと、大きなリュックサックと巨大な槌を背負って出てくるジレグート。
「わぁ、それはハンマーですか? 大きいですね!」
初めて見る武器に目を輝かせたイゼルに、ジレグートは自慢げに「へへっ、そうだろ?」とニヤけた。
こうしてイゼルたち一行はビートダッシュを後にし、新しい街――迷宮都市セリエンスへと向かうのだった―――。
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