第22話 報酬と今後
アレッサスとムートランにイゼルたちが真実を話した日から、三日後の昼。
査定が終わったとアレッサスに呼び出されたイゼルたち三人は、再びギルドマスター室へ訪れていた。三人はアレッサスの正面に、レーティア、イゼル、リリスの順番でソファに座る。
今回の立役者はイゼルだということで、レーティアとリリスがイゼルを真ん中に座らせたのだ。
「時間がかかって悪かったな。なんせ、判断しづらいことばっかりでよぉ。査定もなかなか終わらねーし、すっかり寝不足だぜ」
あくびをしながら、気だるそうに話を進めるアレッサス。
あーだこーだと文句が止まらず、さっさと話しを進めろとレーティアに一睨みされてようやく本題へと戻った。
「ったく、冗談が通じねぇ……。まずは、
アレッサスは机の上に置かれた硬貨が並ぶトレイを、イゼルたちの前に移動させた。
「それから、お前らの等級だがな。レーティアは
「……私たちはそうしたいと思っている。イゼルの許可がもらえれば、だがな……」
どこか緊張した様子で、ちらりとイゼルの反応を伺うレーティアとリリス。
二人は自分たちが危険を招く種だと、嫌というほど理解している。だからこそ、イゼルなら自分たちをきっと拒絶せずに受け入れてくれる。そう思っていても、万が一拒絶されたら……。受け入れてくれたとしても、本当に自分たちのわがままでイゼルを巻き込んで良いのだろうか? そんな不安や葛藤から、今の今までパーティーを組もうと伝えられずにいた。
「え? 何を言ってるんですか?」
きょとんとしたイゼルは、首を傾げる。
「え?? 僕たちはもうパーティーを組んでるんじゃないんですか? 一緒に行動してましたよね??」
不思議そうに尋ねるイゼルに、レーティアとリリスは思わず笑みを零した。
「フフッ、違うよイゼル。パーティーは、ギルドに申請して初めて認められるんだ」
「……そうだよ。今の私たちは、臨時パーティーって感じかな」
「えぇ?! そんなのダメですよ! ちゃんとパーティーとして認めてもらいましょう!」
両こぶしを握り締めて、ふんすっと意気込むイゼル。
その姿に、レーティアとリリスはわしゃわしゃと頭を撫でる。
『急になんですか?!』と、照れながら抵抗するイゼル。
「あー、イチャイチャしてるとこわりぃが話を進めて良いか? っていうか爆発しろ」
三人のやり取りを見ていたアレッサスが、砂糖の塊を口に入れられたようななんとも言えない顔をしながら、ペッと唾を吐きだすフリをする。
「はっはっは、そういえば居たんだったな。忘れていた」
「……マスター、存在感薄い」
「お前らはもう少し俺を敬え。小さいとは言え、歴とした冒険者ギルドのマスターだぞ。あーあー、苦労してお前らの希望通りの報告書も作ってやったのになー。なんかヤんなっちゃったなー」
「すすす、すいませんマスター! マスターはとてもすごいと思います!」
「……どの辺が?」
不貞腐れた様子で顔をそむける姿にイゼルが慌てて謝罪して褒めると、ジト目を向けるアレッサス。
「リリスさんが言ってました。駆け出し救済制度があるのはこのギルドだけだって。つまり、マスターが若手を思って制定したってことですよね? まだ冒険者になったばかりですが、親身になってくれるマスターがいるギルドは、とても安心できると思います!」
「お、おおう……」
目をキラキラと輝かせながら、にっこりと笑うイゼル。
本当に褒められるとは思っていなかったアレッサスは、気恥ずかしそうに頬をかいた。
「とりあえず、なんだ。パーティー申請はこのあとやるとして、お前ら今後どうすんだ? 他所に行くんだろ?」
「これから話し合う予定だが、そうなるだろうな。イゼルたちはともかく、
レーティアは最もな理由を並べたが、実際のところはほかの冒険者から下手な詮索が入る前に移動したいからだ。
レーティアが元
本心を気取られないよう、努めて冷静に返したレーティア。
「まぁそうだろうなぁ。なら、一度セリエンスに行ったらどうだ? 迷宮も実践経験を積むにはちょうど良い訓練場になるだろうし、上に上がるなら迷宮攻略は必須だ」
特に疑う様子のないアレッサスに内心ほっとしたレーティアだったが、続いて出された提案に眉を顰める。
「一理あるが……。基本的に人任せなギルドマスター様が、自らアドバイスとは些か怪しく感じてしまうな?」
「お、お前俺をなんだと思ってやがるんだ?!」
レーティアの懐疑的な視線に、慌てるアレッサス。
「……たぶん、今回の事件の顛末を聞いたセリエンスのギルドマスターから要請が来たんだと思う。
「……ほう?」
リリスの言葉に目を細めたレーティアがアレッサスをにらみつけると、観念したのか両手を挙げて降参のポーズをとった。
「内部事情を知ってるやつがいるとやりづれーなー……。まぁいいけどよ。だいたいはリリスの言う通りだな。セリエンスにある
膝の上にひじをつき、手を組み合わせて口元に当てながら、真面目な顔で語るアレッサス。
イゼルがその真剣な雰囲気にごくりと唾を飲み込むとほぼ同時、レーティアがため息をつく。
「……はぁ。言わんとせんことはわかった。で、本音は?」
「俺はセリエンスのマスターに貸しを作れる。お前らは経験と実績が積める。みんなハッピーだろ??」
悪びれる様子もなく、俺って天才だろ? と言わんばかりにドヤ顔をキメるアレッサスに、ぶん殴りたい気持ちを抑えてこめかみを揉み解すレーティア。
リリスに至ってはいつの間にか右手にクナイを構えていて、今にも投げそうな雰囲気。
「ど、どんな理由にせよ困ってる人がいるなら助けるべきだと思います! 僕たちは冒険者ですから!」
強い決意を宿した瞳で、声高に宣言するイゼル。
彼が思い浮かべる冒険者像は、困っていた自分に手を差し伸べてくれたレーティアの姿であった。
困っている人を助け、命をかけて魔物の脅威からみんなを守る仕事。それこそが冒険者なのだと信じている。実際にはかけ離れたものであるのだが、彼はまだそれを知らない。
先の
レーティアとリリスはその思い込みを正すべきかどうか決断しきれずにおり、今もイゼルの言葉に顔を曇らせた。
「……ああ、そうだな。冒険者の本質はそうあるべきだと、俺も思ってる。お前は立派な冒険者になれるぞ、俺が保証してやろう」
アレッサスは身を乗り出すと、嬉しそうに笑いながらイゼルの頭を撫でる。
『はい、がんばります!』と笑うイゼルに、レーティアとリリスは無理に正す必要はないのかもしれないと思うのだった。
アレッサスは三人の冒険者プレートを回収すると、懐から新しいプレートを取り出す。
「おら、これがお前らの新しいプレートだ。なくすなよ?」
そう言って、アレッサスは銀色のプレートと鉄色のプレートを二枚、三人の前に置くのだった―――。
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