沈丁花
日差しが温かな冬の日、時折冷たい風を感じながら、街路を歩いていると、甘く高貴な芳香を感じた。白色をピンク色で縁取りした小さな花が、いくつも集まって丸く咲いていて、まるで蝋細工のようだった。その花は、沈丁花である。夏のクチナシ、秋の金木犀と並んで、三大香木の一つとされている。いつまでも嗅いでいたくて、歩を緩めた。まだ冬の気配が消えない中控えめに訪れた春は、つまらない私の人生にふと現れた彼への気持ちのようだと、感慨にふけってしまった。この、甘くて切ない気持ちは、私の生活を何一つ変えていない。ふと現れたままずっと在るだけで、何も脅かすことなく、在り続ける。それは優しくて温かく、真っ暗な私の心の中に一つだけ浮かぶ光のようだ。
私はこの気持ちに、この頃依存している。悲しい時や寂しい時、安心感、幸福感を得るために、彼のことを考える。恋に落ちたばかりのころは、無意識に彼のことを思った。しかし、現在の彼への気持ちには恋に落ちたばかりの揺さぶられるような強さはなく、孤独な私を優しく包んでくれる心の拠り所となってしまった。
春は少しずつ大きく強くなって、冬を消し去る。しかし、おそらく私のこの気持ちは少しずつ優しく、そして弱くなっていってしまうのではないかという予感がする。
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