第17話 前世の話
話してみるとヤンくんの前世は私と同じ日本で間違いなさそうだ。私は26歳でヤンくんは20歳と言っていたが、不思議なことに、話が合うのだ。ジェネレーションギャップみたいなのはなさそうだと安心していると、ヤンくんが申し訳なさそうにしている。もしかしたら年代がずれただけで、同い年とかなのかもしれない。
ヤンくんの中身が女性とわかり、急激に親しみが湧いてきた。今まで、伯爵家の令息として、肩にどれだけ力が入っていたかわかる。二人きりの時は、自然と前世での話し言葉になってしまっていて、人目につかない、とは言っても、危ないので、外ではキチンとした言葉遣いをすることにした。前世の言葉遣いで、不敬だ、なんだと場を荒らしたくは無いし、目立ちたくない。
ザリオ様とは今まで通りだが、ザリオ様は前世のネイルと言うものに興味があるようで、その話をするように言われた。
まずは、ネイルは男性より女性がします。と言うと、驚いていた。男性も中にはしている人がいたけど。魔法がない世界の、女性のオシャレであると伝えると、何やらぶつぶつ喋っている。
「魔力を通さない色で、魔獣が寄ってこない色で施せば、可能か?」
少し前の、私と同じようなことを言っている。今の世界で、女性にネイルを施すには魔力の影響や、魔獣などを呼び寄せているようでは、無理だ。
「ネイルの液なんかは魔力を通しますよね。それによって黒くなったりします。それを魔力のない人に施して、魔力の影響を受けないのですか?それならネイルは可能だと思うのです。」
私の問いかけに、少し考えていたザリオ様は、閃いた!みたいな顔をして、「やってみよう。」と言い出した。「やるには魔力ない人を探さなきゃ行けないですし、最悪死ぬかもしれませんよ。」ザリオ様は呑気な顔で、「多分それは大丈夫。だって私がやるんだからね。他の人に任せて死んでしまったら嫌じゃない?」さらっと怖いこと言う人だ。ザリオ様は。
ザリオ様はどこに入れていたのか懐からあるものを取り出した。何かはわからないで、ただ見ていると、どうやら魔力量を測るものだった。前に見たものとは形も精度も違うようだ。どちらが良くてどちらが悪いかはこの際どうでも良いが。これを使いどれだけ、魔力が影響を受けるのかを調べていこうと思う。結果は、微量。途中で、私は気づいてしまった。これはザリオ様だから微量なのでは?
一つ言えることは、いくら好奇心旺盛で手伝ってくれる上司がいても、前提条件を覆してしまうと、正しい結果は得られない。当然のことだが、ザリオ様の今回の実験は失敗した。魔力のない人のデータが欲しいのに、一番魔力のあるザリオ様のデータで補填しようなんて、まず無理だ。どこからか、クレームがくる。
「あの、ザリオ様、どうして手伝ってくださるのですか?これは仕事と関係はないと思うのですが。」ザリオ様はとびきりの笑顔を浮かべ、「仕事と全く関係ないかどうかはわからないでしょう?しかもこんな他の世界のことなんかは、この機会を逃したら二度と聞けないかもしれないでしょう?」と言い切った。
あ、この人は、研究できたらそれでいいのね。一番納得できる答えを貰えた。ある意味、無害であると証明されたような。
魔力の話は、いつか完成したら母や邸の侍女達に協力してもらうことで女性にも無害であると証明することにしよう。
あと、ザリオ様には少しずつ、ネイルについて話すことにした。全てを話し終えるには、とてもではないけれど時間が足りない。ネイルの除去をする話の途中で、ヤンくんがふと口にする。
「除光液がないから作ろうとしたけれど、難しくて。」
ふと、除去魔法のことを話すと、二人の目の色が変わり、それで、私はまたやらかしたことを知った。
除去魔法のことを話さないとこれは帰してもらえない。しかもザリオ様は除光液にも興味を示したようで、それについて、ヤンくんを質問攻めにしている。説明するより、やってみたほうが早いと、やってみせる。私はこの魔法がどんな仕組みかはわからないけれど、何回かやってみせることで、ザリオ様は何の魔法の組み合わせかわかったようだった。さすがだ。
除去魔法をザリオ様が同じように組み立てて、使うと、私よりは時間がかかったが、同じ効果が得られたので、それを今後はチームで共有するらしい。ザリオ様がこちらを向いて「ほら、全く仕事に関係なくはなかったでしょう?」と笑う。確かにその通り。ザリオ様に話したら、最初は意味のないものであったとしても、ちゃんと意味のあるものに変えてくれるのだと思った。これは、きっとザリオ様専用のチートだ。
これで私の腹は決まった。一からちゃんと丁寧に話すことにする。前世で学んだ知識を惜しげもなく、披露する。ザリオ様を味方につければ、ネイリストとして今度こそ、活動できるかもしれないから。
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