第16話 内緒の話

それからヤンくんはやたらと私に構うようになった。これは、BがLするやつ、って言う認識で良いのかな?それとも子どもが好きって言う博愛な感じ?知るのは怖いけれど、知らないのも怖くて悶々としていたが、ある日偶然にも原因を知ることになる。


「君たちは、最近仲が良いみたいだね。」

ザリオ様にふと尋ねられる。

「私が幼いからか、よくお世話をやいてくださるのです。」私に顔を近づけて、小声で、「迷惑だと言っても良いんだよ?多分それぐらいだとご褒美に……」

ザリオ様がそう言いかけた時、横からヤンくんが否定する。「ザリオ様!私のルイに変なこと吹き込まないでください!」


ん?空耳?

私のルイって聞こえましたけど。


一つため息をついて、ザリオ様はヤンくんに言う。「君、そろそろちゃんと説明しないと、ルイに嫌われてしまうよ。誤解を解いた方がよいと思うけど。」言い聞かせるような真面目な口調。


顔が少し青ざめているように見えるヤンくんを不思議に思っていると、謝られた。咄嗟のことで慌てる。


「ごめんなさい。今まで、黙っていて。実は私、女性なの。」


え、どう言うこと?


知らない間に、ザリオ様がお茶を入れてくれた。ここは、ザリオ様の執務室。普段なら報告時ぐらいしか訪れない場所なのだが、何故か、ルイとヤンは呼ばれて、こうして話をしている。


ヤンくんはどこからどう見ても男の子。女性らしい方も男の園と呼ばれるだけあって、全くいない訳でもないが、そう言うタイプとはまた違う。


「実はね、ヤンくんは、前世の記憶があるんだ。」


ザリオ様は、こちらが信じる前提で話し始め、私は内心、まるで自分のことをいわれているようだと怯えていた。


ザリオ様によると、ヤンくんは、前世、20歳の女性だったらしい。こことは違う世界で生きていて、可愛い少年が大好きだったと言う。


ヤンくんはルイを一目見てから可愛くて仕方なくなり、話す機会を伺っていたらしい。


ザリオ様はヤンくんの態度に少しだけ、危機感を覚え、私を守ろうとしたらしいが、表だって邪魔するわけにもいかず、どうするか悩んでいたところ、思いがけず、渦中のヤンくんの方から、カミングアウトされたらしい。


「私には前世の記憶があります。失礼ですが、貴方もですか?」と。


ザリオ様は、前世の記憶はないらしく、自分が間違えられたのには理由があるのかと考えた。


ヤンくんの前世には、ネイルと言うものが、あって、それは爪に模様を施す貴婦人のお洒落だと知った。ネイルがこの世界にないものだと知ったヤンくんが、ザリオ様が前世持ちなら記憶から、この魔法を生み出したのだと考えてもおかしくはない。ただ、ザリオ様は思った。自分を疑うなら、同じような思考で、僅か7歳で魔術師見習いになった天才児は、一体何者なのかと。


そしてヤンくんは、私が同じ前世の記憶を持つ者かどうかを見極める為に側にいたと言う。


「いくらか、邪な気持ちもあっただろうが。」ザリオ様は呆れた顔でヤンくんを一瞥し、私に向き直る。


「単刀直入にきく。君は前世の記憶があるのか?あるなら、私たちを手伝ってほしい。」


もとより、手伝う気はあるが、どうすれば良いのか、わからない。


どう返事すれば良いか迷っていると、ヤンくんは元気に、「やってほしいことがあれば、手伝ってあげられると思う。」と言った。やりたいことがたくさんある7歳児には殺し文句。


「おっしゃる通り、私は前世の記憶持ちです。私はヤンくんより年上の26歳。女性でした。」


セシルに話したことを、ザリオ様やヤンくんに話すのは緊張した。嫌われたらどうしよう、とか嘘だと思われたら、とか考えてしまう。セシルの場合、中身が見えるチートを向こうが持っていたから仕方なく、本当のことを言うしかなかった。


けれど、この二人は、見えてるわけでもない。証拠なんて何もない。ただ、自分の意見しかない。


ヤンくんの中の人が、私と同じ時代なら証拠になるかもしれないが、ザリオ様が果たして信じてくれるかは、全くわからない。だからこれは賭けだった。ザリオ様は興味を持って話を聞いてくれた。


今まで子供だと思っていた弟子が、中身は自分より年上だったのだから。 


「だから、君はいつもあんなに落ち着いていたんだね。」ズルをしていた訳ではないのだが、少し言い方にトゲがあるような……?


ザリオ様は、二人に他言無用だと言った。話したところで信じては貰えないから大丈夫。ヤンくんに一つだけ、お願いをする。


中身が26歳の女性はイケメンの若い人に抱っこしてもらうのは遠慮したい、と。ヤンくんは心底残念な顔をしていたが、ザリオ様の視線に慄いていて、了承してくれた。


たまには、触らせてほしい、といわれたが、はいと返事をする前に寒気がしたので、最終的に返事はせずに、曖昧に笑っておいた。


日本人の悪い癖だ。笑ってごまかす。

この世界にきてからはあまり使っていなかったが、有効だろうか。





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