第14話 これが何か?
当初は多少なりとも不安があったもののそれなりに忙しい日々と、研究に時間を忘れるほどのめり込むことで、もう何が不安だったのかすら思い出せなくなっていた頃、初めて、研究室から出て遠征に向かうことになった。
魔法陣を爪に施すために、私は昔から使っている馬の尻尾の毛を使った細筆を何本か持っていたのだが、何故か不思議そうにその筆を触りながら、こちらをチラチラ見ている魔術師の方々。
あれ?なんか珍しい筆とか?
「ねぇ、ルイ。それ、何に使うの。」
ふと目が合った魔術師の先輩が疑問を口にする。
「あれ?こういうの使わないのですか?魔法陣書く筆ですよ。」
「え。魔法陣これでかけるの?」
「は?」
「ん?」
あれ、皆さん何で書くのだろう?
どうやら魔法陣の書き方は人によるみたいで、私のように筆を使う人もいるにはいるようだ。ただ、筆に魔力を込めて使うのは熟練者でなくちゃ、できないらしく、私はこの筆を使うことも、私のチートの一つであったことを思い知らされることとなった。
さすがに、もうチートはないよな、と思いかけた後、それが完全なフラグだと思い知ることとなる。
皆さんが私が描き始めるのを楽しみにしていたので、とりあえず書いてみる。いつも通り書くだけで、人集りからおお~っと声が聞こえる。
そんなに、驚くこと?
まあ、普通の7歳児よりは器用だとは思うけれど。
紋様を魔術師の指示に従って、サクサクと書いていく。あまりのスピードに、何人かの見習いの方が息を呑んだ。
5歳から、紋様の本を毎日眺めた甲斐あって大抵の紋様なら組み合わせ含めて頭に叩きこんである。
ネイルのチップを作るときのように、紋様を並べていると、不思議そうな顔をする人と、閃いた!みたいな顔をする人とわかれて、その表情をみるのも面白かった。
あと、透明の液を改良して、貼って、剥がせるタイプのものも作った。
所謂、シールだ。
貼ったはいいが、取れない、もしくは取るのに時間がかかるのでは、時間が足りないし、忙しくなる一方だ。
私は、シールの台座として、ツルツルした表面をもつ土台を作った。そこに出来上がったものを貼り付けていくと、驚異的な速さで、魔法陣がたくさん完成した。
遠征までまだ時間がある。
「時間、余ったね。」
ザリオ様は楽しそうにしていたが、シール形式の魔法陣を熱心に見ていた。
「ルイは、本当に良くこんなの、思いつくよね。凄いな。」
セシルの様に、ルイの柔らかい髪を触る。猫っ毛のルイの髪の毛は、静電気で、上に立ちやすいけれど、肌触りがとても良い。自分でも、たまに触るぐらいのサラサラふわふわ具合だ。
ルイが頭を撫でられて、目を細めた様子を見て、他の人も触りたそうな顔をしたが何故だろう。私は犬猫枠なのか?
単に小さな子どもが可愛くて触りたいとかなら、良いが、なんせ男ばかりなのだ。どうせ触られるなら、女の子がいいな。
魔法陣のチップを持って遠征場に行くと、レベルとしてはそんなに強くない魔獣が現れた。
この程度なら、多くは使わなくて済みそうだ。ザリオ様は、見習いの三人に目を向けて、「やってみたら。」と言った。え、それ今言う?魔獣の咆哮始まってますけど。
他の人は慣れているみたいで、迷いなく攻撃を繰り出す。火力は多いものの、消耗が激しい魔法ばかり繰り出す人と、連携とか魔獣の特性とか一切考えてない人。回復を先にしてしまおう、とストックから回復系を先の消耗の激しい人につける。
あとは自分の持っている魔法で何とかなった。
魔獣の特性をもっと知る必要があることと、連携を取る為に情報交換が必要なことがわかった。
また、私が前世から苦手で、こちらにきてから特に苦手を増幅してしまったことがある。情報交換の最中に周りに気づかれないうちに克服しようとしたら、とっくに気付かれていたことがわかった。
指摘されて、恥ずかしくて、顔が赤くなる。その方は良い方で、笑ってくれたのがまだ救いだが、本来ならとても失礼なことだ。
ザリオ様以外の人の名前が、うろ覚えなことだ。だって考えて見てほしい。日本人ならまだしも、外国人の名前って難しいし、爵位もあるし、覚えなきゃいけないことが満載なのですよ。
わかんないよ。前世では、前髪長い人を前髪、とか特徴で覚えてたダメ社会人だったのだから。
でも、その辺りは年齢のせいにしてくれて、魔力や、能力のことも含めて念入りな自己紹介を、してもらえることになった。
ちなみに、このチームでの前髪長い人は、何かやたら長い名前だったが、本人の申告により、ダンと呼ぶことに決まった。二文字ぐらいなら、覚えられる、と思う。
半ば強制的に全員二文字の名前にしてもらった。名前と言うよりあだ名みたいだけど。あとはたくさん名前を呼んで、覚えるだけだ。
いまだに、ダン=前髪と、関連づけて覚えているのは内緒だが。そして、ダンと言うまえに、心の中で前髪、と呼んでいるのも内緒だ。
それぐらいは許してもらえるだろう。
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