第13話 男の園

魔術師は男しかいない。勿論、見習いにも、男しかいない。わかってはいたものの、目の前にいるとむさ苦しい。

薬草の匂いなのか、何か臭いし。


初対面でまさか、臭いですね、とは言えなかったので、鼻呼吸から口呼吸に切り替えて話す。鼻声を指摘されることはなかった。


とりあえずザリオ様のチームにご厄介になる。小さな見習いに他の人の目は優しかった。チームは魔術師3人に見習い3人の6人。私の他に見習いが二人。見習いの人は、3年ほど見習いをされている人が一人、4年見習いの人が一人。見習いの期間は人それぞれで、師事している魔術師からOKサインがでると、見習いから昇級することができる。だから、まあ、サインがでなければ、ずっと見習い、と言う話だ。


わかってはいたけど、怖い話だ。エサをちらつかされて一生待てが続くような。


魔術師は国から依頼があると、戦闘やら、調査やらに出かけるが、普段は何をしているかと言うと、研究だ。


今現在の魔法や魔法陣に満足することなく、日々研究を繰り返す。ザリオ様は、最後に手紙のやり取りをした内容から後のことを知りたがったので、まずはその報告から。


ノートを開いて、報告を始めようとした私を周りは興味津々と言った様子で見ていた。7歳と言う歳の割に、研究の内容をびっしり書いていたのが意外だったらしく、見習いの先輩達はもはや身を乗り出して覗き込んでいた。


「これ、自分で書いたの?」

「はい、そうですけど…」

自分で書かないなら誰が書いてくれると言うのだろう。使用人とか?いやいや、ないない。


ザリオ様が、ノートに目を走らせて、

「ここからだな、報告して。」と言ったので、雑談の時間は終わった。


他の見習いの人も報告があるだろうに、どうやら師匠達がこちらを気にしているようで、一向に始まりそうにない。


諦めて、少しだけいつもより緊張しながら、報告した。


ザリオ様は聞きながら、研究の穴を探して質問してくるので、答えつつ、研究の内容を思い出し、起こり得る可能性などを論じていく。手紙のやり取りを口頭で行っただけで、これは二人でずっとやってきたことだった。


私たちの報告が終わると、ぽかんとした他の見習いの人がいて、目が合った。


「はは。君、すごいね。」

感情の入らない感想を貰う。なんか不思議な感じだ。ザリオ様以外の魔術師もびっくりした様子で、戸惑っていた。


そんな特別なことしていないのに、どうしたのだろう?


ザリオ様の凄いところは、私の報告を聞き終えたところで、私の研究結果を踏まえた内容の気づきを用意してくれるところだと思う。


「これは、見習いとして初めて、研究していく内容だよ。今まで通りのやり方で構わないので、検証してくれる?あと、ノートは最後に提出してもらうから。」

「はい、わかりました。」

返事したものの、研究ノートに変なこと書いてなかったか、後でチェックすることにする。ノートに転生のこととか、

余計な書き込みがあれば、運が悪ければ、研究材料にされてしまうかもしれない。この部屋に足を踏み入れた瞬間から、怪しい視線を感じているので、慎重すぎるくらい慎重になろうと思った。


検証を始める前に、筋道を考える。わざわざ書かなくても頭で考えただけで、大丈夫なザリオ様みたいな天才には必要のない作業だが、私には必要なことだ。


ノートをパラパラとめくってヒントになることが、わかるかと探したものの、すぐには見つける事ができなくて、そのまま進めた。


散々検証した後に、ノートの一番最初にヒントがあることがわかり、少しショックをうける。ノートの取り方の工夫が必要だと思う。社会に出てからは、ノートを取ることは少なかったけれど、学生の頃は、色々な工夫を施してノートをとっていた事が、まさか、異世界で役に立つようになるとは、思っても見なかった。


お昼になると、昼休みがあって、多くの人は食堂に向かう。私は料理長に頼んだお弁当を持ってきたので、外に出て食べることにした。


外に出ると風が柔らかく吹いていて、暑くもなく寒くもなく、丁度よい天気だった。お弁当を開けると、私が好きなものがたくさん入っていた。


私がベンチに座って食べていると、お弁当が珍しいのか、わらわらと魔術師の皆様が寄ってくる。お弁当も珍しいし、子供がいるのも珍しいのだろう。あと、当然のようにいつの間にか隣に陣取っていたザリオ様も。


ザリオ様が人を気にかけるのは珍しいことのようだ。私に好意的なのは、多分手紙で散々やり取りをしていたからだと思っていたが、実は何か理由があるのだろうか?


例えば、…セシルのように、私が見えるとか?


ない、とは言い切れないが、確かめるのは怖くて、今はまだ知りたくないと、聞くのは諦めた。


料理長に卵焼きを作って貰ったのをザリオ様に差し上げると、気に入ったようで、ご機嫌になった。


これぐらいの賄賂なら許されるだろう。


気に入ったようで何よりだ。ザリオ様からは明らかに苦手そうな野菜を貰った。


おかずを交換するのは、今日でやめよう。不利すぎる。



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