第12話 偉大な人物
「おい、チビ。」
何やらふんぞり返り偉そうなチビに話しかけられる。
チビってどっちがチビじゃあー!
と、思ったものの顔には出さず、誰だっけ?と言う顔をするだけにした。
魔術師は完全実力主義で、そこに身分なんて物はない。これは、一般常識なのだが、貴族の子供たちの中には一部、そのことを、理解できない人達がいる。
多分、こいつらもそうなのだろう、と、身構えていると、案の定、私を威嚇してきた。ルイだって、三男ではあるけれど、伯爵令息だから、貴族をかさにきても回避できると思っていた。
自分より小さい子供を睨みつけて、指を指して、脅すなんて、ろくでもないな。指を指すのは失礼だと教わらなかったのだろうか。
「お前、いい気になるなよ!ザリオ様の一番弟子は僕なんだからな!」
ん?
罵詈雑言を期待していた身としては、拍子抜けと言うか、可愛いやつなのか?と戸惑いでいっぱいになる。
あれ?違う?
私の反応が予想外だったのか、顔を真っ赤にして畳み掛ける。
「わかったら、ザリオ様に馴れ馴れしくするな!」
特に馴れ馴れしくしたつもりはなく、ただの会釈にすぎないのだが、弟子なのかファンなのか、どちらかはわからない彼が言うのなら、聞いてあげようと思った。
「あ、はい。」
「わかったらいい。」ぷいと、そっぽを向いて、それきり振り返らなかった彼とは試験中会うことはなかった。
彼の名前も知らず、自分の名前も告げていないので、時間が経つにつれ、今の出来事すら、忘れていった。
ザリオ様は、私の担当試験官だったらしく、すぐに、彼の忠告を破ってしまった形にはなったが、自分の力でどうにかできる問題でもないので、どうもしなかった。
今までザリオ様への報告を通して、試験対策できていたことにより、1カ月の試験は一瞬で、終わった。
魔術師見習いは貴族、平民の身分にかかわらず受験出来るため、平民が受ける率が、他の職業より段違いで多い。見習いになるのは簡単で、正規の魔術師に雇用されるのが、凄く難しいので、大抵は見習いを経験したら、冒険者になるか、研究者になるか、別の職業に転職するのがほとんどだった。
見習いは、長い人だと10年かかってもまだ見習い、と言う人もいるが、たいてい5年以内には次のステップに移っていく。別の人生然り、魔術師試験に挑むなど、何かしら行動を起こしていく。
私はと言えば、魔術師になるのが目的なので上司からゴーサインが出ればすぐにでも昇級試験を受けるつもりだった。
魔術師見習いの試験は、今年で15年目になる。ザリオ様が2期生。最初のうちは、年齢制限などなかったようだが、ある時から子供の命を守るために7歳からと制限がついたようだ。あまりに小さな子供だと、魔力を制御できずに自らの命を危険に晒す恐れがあるために、制御できない6歳までは、試験を受けられないことになった。
ザリオ様は、宮廷魔術師の一番偉い人だが、それは表向きの話で、本当の偉い人は、1期生の先輩方らしかった。
ザリオ様の一番弟子と、言っていた少年のことを聞くと、笑って彼は残念ながら落ちてしまったんだ、と言った。
魔術師見習いの今年の受験者数は6000人強。合格者数は3人。私はかろうじて合格し、担当試験官であったザリオ様に師事することに決まった。
私の他の合格者は、貴族の子が一人、平民の子が一人。貴族の子は、13歳で、平民の子は15歳。ルイより、ずっと大人びた二人だったが、ルイのことを試験で見てから気になっていたようで、たくさん話をしてくれた。
見習いは、まず、師事する人に就いて見習いとして働きながら、知識を身につけていく。16歳からは魔術師学校に入ることもでき、実技と座学で、技を磨いていく。
師事する人によって、得意な分野が違うので、不公平にならないように、毎年見習いを取るときは、満遍なく得意な魔術師の手が空くように調整して仕事を振り、見習いに、負担がかからないようにしている。
ザリオ様はいわずもがな、魔術師の中では一番満遍なく魔法が使え、今は手が空いていて、最年少の少年と面識があることから、ザリオ様は、ルイの教育係を受けざるを得なかった。
ザリオ様の一番弟子と言っていた彼が、ザリオ様に会ったのは丁度2年前で、ルイと会う半年前だったので、一番弟子の称号はあげるし、何ならどうでもよいのだけど。聞いたところ、彼は学校に入ったばかりの16歳だと言う。あんな子供っぽい16歳がいていいのか。体が小さいことも含め、私の頭には難しすぎて、うまく頭が回らない。
彼の名前は、知らない方が良さそうなので、特に聞かなかった。ザリオ様も、特に興味は無さそうだったので、彼の話はそこで終わった。
私は見習いになったら、劇的に何かしら違うことがあると考えていた。憧れの職業につくのだから、自身の感情の変化なり、を味わえるのだと。
実際に味わったのは、ザリオ様の瞳の奥に浮かぶ、珍しい物を見つけた時のような、好奇心と私の心にひっそりと浮かんだ恐怖だけだった。
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