第11話 私の強み
「貴方の強みは何ですか?」
前世でよく聞かれた言葉。何故か今思い出す。試験の面接が近づいているせいかな。
7歳の誕生日を控え、ついでに試験も控えたルイに家族は優しい。試験の直前になると、もう諦めの境地みたいな状態になっていた前世の自分を思い出す。まだ試験まで2か月以上ある現在、諦めるには早すぎるのだが。
誕生日を迎えると、ああ、もうすぐだ、と言う意識が強くなった。同時にワクワクする。
試験は一日~二日程度だと思っていたが、一月かかるようだ。魔術師と言う特殊な仕事なので、見習いと言えど、おざなりな試験をするわけにいかず、そのぐらいかかるのだそう。
私の強みって何だろ。
何でもやってみることかな。
この世界のことを何も知らないから、何にでも興味があるし、何でもやってみたい。
ザリオ様の本のおかげで、危ない実験は回避されたが、何でもやってみるという行為は諸刃の剣だろう。
あー、こっちにも赤本があればいいのに。魔術師見習いの試験の情報は、皆無だ。もしかしたら、一部の有能な関係者には公開されているのかもしれないが、どう言った内容で、合格率はどのくらいで、と言った情報が全くと言っていいほど入ってこない。
だからといってそう言う事を、父やザリオさんに聞くと言うのも、少し勇気がいる。そんな風に思われたら心外だが、楽をしようとしている、とか不正を疑われたりしたくない。でも、少しだけ聞くぐらいなら構わないかな、とザリオ様への手紙に少しだけ匂わせる程度に書いておくと返事がきた。
ザリオ様に借りた本をじっくり読んで頭に入れておけば大丈夫だと、言われた。
だから、私は言われた通り、隅々までじっくり読んで、暗唱できるぐらいになったところまで、読んだ。
誕生日になると、ザリオ様に誕生日のことを伝えてないのに、プレゼントを貰った。何に使うのかわからない棒と、紙を何枚か。厚手で、普通の紙ではないみたい。何に使うかわかるまで、大切に保管しておく。そしてまた本を。少し上級者向きだから、見習いになってから、読むようにと書いてあった。
父からは魔法に関する図鑑を、セシルからは筆を、母からは、薬草を貰った。母は、ルイが庭で色んな実験を嬉々としてやっている様子から心配させていたようで、怪我をしないようにと、薬草と、効能を書いた本を手渡された。最近になって知ったのだが、母は薬草を育てている趣味があるらしく、その一部を私のために提供してくれるつもりだった。
実際には実験で、負った傷と言うのは、単に庭でつまずいたぐらいの、すり傷なのだが、想像力豊かな母の頭の中では、火傷とか、やたらと重傷な怪我になっていて傷を見せると、悲壮な顔になるので、出来るだけ隠すようにしていた。
子どもは怪我をするのが、仕事だとばかりに、マシューが怪我をするので、母はマシューに任せていた。
そんなマシューからは、絆創膏を貰った。絶対母の入れ知恵だ。アデルからは、絵を貰ったので、お部屋に飾る。タイトルは「ルイの花」らしい。一時期、花ばかり召喚していたのを見ていて、アデルの心に残ったらしい。
前世の記憶を呼び戻し、花冠を作って、頭にのっけると嬉しそうに笑った。我が妹は天使ではないかと思う。
可愛い妹に癒されると、今更ジタバタしても仕方ないと、ザリオ様に貰った本を少しだけ読んで見よう、と思いたった。
正直、前世では、あまり本を読むのは得意ではなかった。活字を読むのが嫌いで、取り扱い説明書すら、読まず失敗することが、数多くあった。
今はと言うと、年齢から見ても、本はたくさん読んでいる方だと思う。他に娯楽がないので、当然と言えば当然だが。あと前世にはなかった魔法と言うジャンルは、魅力的で7歳の頭にはどんどん吸収されていった。
試験は王宮で行われる。王宮までは、父に送ってもらい、父とは控え室で別れ、面接会場に入る。
見習い試験は7歳からだと言うのに、その場には、7歳に見えるのは自分だけと言う具合で自分は結構浮いていた。
離れたところに座っていた二人組が、わざわざこちらまで歩いてきたと思ったら、嘲るように鼻で笑ってきたり。
なんだ、こいつ。
精神年齢アラサーの私からしたら、(このガキが…)ぐらいなのだが、まあ、見た目にはわからないよね。
申し込みをした際、配られた整理券により、順番が呼ばれるので、それまで部屋を眺めたり、ボーッとしたりして過ごした。感じの悪い二人組は、そのあとも私の様子を見ていたようだが、私は興味をなくしていたので、特に気にはならなかった。
別の部屋に呼ばれて入っていくと、面接官のような人がおり、その横にザリオ様が、ちょこんと座っていた。
試験はまず面接し、課題が発表され、筆記試験が何日か、また面接、前回の課題を提出し、また課題、面接、みたいな感じ。
課題と面接は何度か繰り返され、その都度、結果と過程と報告が必要になる。
やり始めてから気づいたことは、自分がこの試験をやったことがあるな、と言うことだ。
これは、ザリオ様に手紙を書く行為と類似していた。しかも筆記試験の内容が、まんまザリオ様の著書の内容そのままだった。
あれ、楽勝じゃね?
私が調子に乗ってしまったのも、仕方ないことだと思う。ザリオ様は、私をみつけると、嬉しそうに手を振ってきた。
ちょこんと会釈する。
同じ部屋にいた何人かの受験生の顔が強張ったのを、私は知らなかった。
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