第9話 妖精さんショック
目をパチクリさせた私を楽しそうに見上げて、笑顔を見せる様子は、年相応に見えた。天性の愛らしさに、可愛いと素直に思う。セシルも何らかのチートがあるのかな。転生者家族特典みたいな?
そんなのあるのかな。
ところで、セシルの協力って何だろう?
それは、誰かの協力なしでは、わからなかったことで、でも大切なことだった。
ズバリ!6歳に見える生活習慣!だった。
私がルイになってから、ルイはずっと子どもらしくなく、様子がおかしかったと言う。確かに、そうでしょうね。あんなに大人しくて、自分の意見さえ言えなかったルイが、まるきり変わってしまったのだから。
協力者はあと二人いて、マシューとアデルが何故かドヤ顔で立っていた。
マシューとアデルには、混乱するだろうし、家族特典も無さそうなので、前世云々は言わないことにした。
マシューとアデルが、一目散に庭に走っていくのを、見ながら一緒に走ると、マシューもアデルもルイをみて、嬉しそうに笑った。その顔を見て、そういえば最近は実験ばかりで、遊んでいなかったなぁ、と気づき、反省した。
私は今6歳だった。遊び盛りで、兄妹の仲も良い。きっと大きくなってしまうとこんなに無邪気に遊ぶなんて出来なくなる。後ろを振り返ると、満面の笑みを浮かべて、セシルも走ってきた。先程の大人っぽい顔はどこへやら。
子どもたちの楽しげな様子は、伯爵家の大人達を癒し、ほっこりとした気分にさせた。特にセシル、ルイが走り回っている様子は、最近大人びてきた二人を寂しく思っていた使用人たちの心を洗った。
とりあえず走る。あっちの木まで、競走と言って走る、走る。ルイは最近体力をつけようと走っているからか、割と元気だった。体力はついているようだ。
アデルの足が疲れてきたみたいなのでかわる変わるおんぶして遊ぶ。楽しそうで何より。背中で、ウトウトし始めたアデルを侍女に預け、三人で木に登ろうとしたら、マシューの家庭教師の先生が到着して、マシューは不満げな顔をしたまま、連行されていった。
結局セシルと二人で木に登る。二人なら登らなくてもよかったのだが、気分が高揚していたし、楽しかったので、登ることにした。
前世を思い出すきっかけになった木にまた登る。あの時はマシューの下敷きになったのだが。大きな木は、よそ見さえしなければ、容易く登れる。
枝の間から、空が見える。風が優しく吹いていて気持ち良い。
足元に気をつけて降りていく。窓から丁度勉強中のマシューの姿が見えた。
マシューの近くにふわふわと浮いてるものを見つける。何、ホコリ?…にしては大きいな…。
ホコリだと思ったものは人の形をしていて、目が合った。
「ホコリじゃないよ、お前失礼だなぁ。」
ん?となりのセシルに助けを求めると、セシルは、見えてないみたいだった。
え、また。また私だけ、見えてるパターン?
あれ、何?妖精なの?
頭の中をハテナマークが飛び交う。
「おーい、返事しろよー。」
話しかけてきてるし。えー、どうしたら良いの、これ。
声を出すと、セシルが見えてないようだから、また変なことしてると思われるだろうし、声を出さず、頭の中で謝ってみる。
(ホコリなんて言ってごめんなさい。)
「いーよ、別に。お前、俺が見えるんだな。」
嬉しそうな顔で、マシューの側からこちらに飛んできたのは、少年のような妖精だった。
(う、うん。見えるよ。何でかわからないけど。)
正直さっきまで見えませんでしたけど。
これも、チートなのか。もしかして。
「うーん、何だろな。よくわかんねえや。」
妖精が何でかわからないなら仕方ないよね。
手紙でザリオ様にそれとなく、聞いてみよう。ザリオ様なら、もしかしたら、妖精も見えるかも。そんな気がする。
マシューを見てて、気になったのは、家庭教師の先生は、マシューしか教えていないと言うことだ。
「セシルは勉強しないの?」
「僕は朝したよ?」伯爵家を継ぐセシルは勉強を父に見てもらっているようで、父が先生なのだった。
じゃあ何でルイには先生がいないのだろう?
セシルは私のいいたいことがわかったのか、「ルイは魔術師見習いになるんだろう?そこで、先生に師事するのだから、家庭教師はいらないよ。」となんでもないことのように言った。
あ、そうか。
そういえばそうだね。
私はよくこの世界でやりたいことを忘れてしまう。さっきの妖精さんショックや、チートショックなどが原因で。
でも、貴族の子ども達は、マナーとかを家庭教師から学ぶのだろう。魔術師見習いでは、そう言うのは学ばないのではないかな。と言うことは、魔術師になった人たちはマナーを知らず、ロクでもない人たちなのではないだろうか。
「えー、そんなことないよ。みんないい奴らだよ?」
先程の妖精が話しかけてくる。
「君、魔術師になるならさ、僕と契約しようか。」
また新しい言葉が出てきた。
契約って何?
妖精は楽しそうに教えてくれた。
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