第8話 植物図鑑を片手に
オレンジ色の花を召喚してから、私は良いことを思い付いた。この透明な液体を作るための薬草を魔法陣に書けばいいのでは?かざすだけで、召喚できるのだから。
とはいえ、草ってどれも似たり寄ったりで、区別できない。
だから、草の名前を書けば良いのかな?と思った。
でも、うまく出来なかった。その時は何故か全くわからなかったのだけれど、その後の手紙のやり取りから、草の名前だけだと情報が少ないことがわかった。あの透明な液体に使うのは、草の根の部分で、そこだけを指定すると、うまく召喚できることが、わかった。
草の全体を召喚するには、私の魔力だけだと、不足してしまうようで、それが召喚出来なかった原因らしかった。
草の全体像は、図鑑ではわかりにくいが、思っていた以上に大きいようだ。
後に、召喚できた根の部分だけでも結構な大きさがあり、全体がいかに大きいか理解できた。
草の全体を召喚するには、大人の魔術師でいっぱいいっぱいぐらいだから、根の部分だけでも、召喚できたのは、成功と思うべきだろう。
他の草も大体同じ理屈だった。
召喚できないものは、今の魔力では難しい、ということを教えてくれた。
とはいえ、この事実が分かったことが成功とも言えた。
前世では植物図鑑など、あまり興味はなかったが、何となく、似ている花や見たことのある草などがあって、懐かしい気分になった。
召喚できた花や草は、ズールさんに申告し、一緒に成長を見守る。突如現れた植物に驚きつつ、ちゃんと対応してくれる。プロ根性に感服する。
草の中には、薬草だけでなく、毒草と呼ばれる触ったら危険とか麻痺が出る、とか目が痛くなる、とか何らかの症状を呼び起こすものがある。
今回の召喚では、毒草を召喚する際、注意が空中に浮かび、召喚するか否か選べるようになっていた。触ろうとしても、注意事項は出てきて、これは何の力なのだろうと疑問に思った。
異世界チートなの?
それとも、この世界では普通のこと?
判断はできかねた。
手紙に書くのも躊躇ってしまったのは、心の隅の方で、異世界チートなのでは?と確信に近い想いがあったから。
チートだとしたら、他の人は毒草と知らずに召喚することもあって、それに知らずに巻き込まれてしまうこともあるわけだから。
全ては難しくとも、危険とされる毒草は覚えよう。あと、それを中和もしくは回避できる方法も探そうと思った。
そして、その方法について、ザリオ様に手紙を書くと、案の定、毒草の注意書きは、自分だけの能力であることが、判明した。
他にどんなチートがあるか、わからないが、自分でわかるチートは良いな、と思った。後で気づくのではなくて、使ったときにわかるのは良い。夢を見ている時にこれは夢だと思うような?この例えはあっているのか?
当然のようにしていることがチートだったと気づいたときの居た堪れなさとか考えるだけで、嫌だ。先に言ってよ、という感じ。自分だけ、ドッキリにかけられたようで落ち着かない気がする。
ともあれ、チートはこの先も気にしていくしか、仕方ないのだが。
植物図鑑を片手に毎日庭に行く私を興味深そうに眺めている人がいた。
父は召喚の様子を、危険がないかハラハラして見ている様子だった。
心配させて、申し訳ないと思いつつ、ひたすら召喚を繰り返す。
あと一人、セシルもよくこちらを覗いて見ているようだった。弟の様子が気になるみたいだが、やっぱり普段の距離感が兄弟ってこんなに近いの?と混乱するほどで若干、苦手意識を感じていた。
ある日、薬草を召喚し続けていた私にセシルが近づいてきた。咄嗟に身構えてしまう。セシルはそんな私に苦笑しながら、「ルイはどこにいるの?」と聞いた。
ん?目の前にいますけど?
「貴方は誰ですか?」
背筋に冷たいものが走る。
え、何これ。何が、セシルには何がみえているの?
真っ青な顔をした私の耳元で、囁く。
「貴方の力になりたいのです。」
凄い殺し文句。齢11の子どもに言われて不覚にもときめいてしまう。
私の慌てように確信が強まったのか、不敵な笑みを浮かべて、話を続ける。
「貴方はどこから来たのですか?お姉さん。」
どうやら、セシルには私が見えているみたいだ。
どこから話せばいいのか、沈黙した私をセシルはじっと見つめ、他意のない笑顔を見せる。
「僕に貴方がどう見えるか知りたいですか?」
頷くと、少し嬉しそうに話し始めた。
「年は僕より少しお姉さんに見えます。17、8歳ぐらいかな。ルイの顔なんだけど、少し気配がわかるというか。」
はあ、そう見えてるのね。
あー、でも年齢はもう少し上だけど、黙っておこう。
「私は…」
それから、私は私のことを話した。前世のこと。ルイの意識は今は感じられないこと。私がここにいる理由はよくわからないこと、あと、ルイに危害を加える気はないこと、など。
一通り話すと、少し胸のつかえはとれた。私の話を聞いたあと、ふーん、といったまま、微動だにしなかったセシルは
急にニッコリ笑って、わかった、と言った。立ち上がり、私の前に跪いたと思ったら、「僕、協力するよ。」と言って、私の手を握った。
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