第6話 それはフラグですか

宮廷魔術師の一番偉い方の名前は、ザリオ・イスタと言い、イスタ伯爵家の変わり者と有名な方だった。


「ザリオ・イスタってどっかで聞いたことあるんだけど、どこだったっけ。」


借りた本をパラパラとめくっていると、著者の欄に、その名前が載っていた。


どうやら自分の著書を貸してくれたようだ。


魔術師を目指す者向けに書かれたその本はとてもわかりやすい反面、数々の疑問も生むことになった。


疑問に思ったことは、実験してそれでもわからないことは見習い試験のときにでも聞こう。それか本を返すときに聞くか。


何冊か借りたのだから、全部穴が開くほど読んで、読み込んでいこう。何冊かの本の中に、ザリオ様の連絡先が書いてある封筒が入っており、それで報告するように、と書いてあった。


父の執務室を訪ねる。


ザリオ様に報告するのに、書式はあるか聞くと、研究者がよく使う報告書の書き方を教えてくれた。


魔術師の様式が同じかどうかはわからない、とも言っていたが、父に聞いてみてよかった。


コンパクトにまとめたつもりでも、全部で10ページほどの厚さになり、元々入っていた封筒は使えなかった。


魔法陣の種類や色について、気になるところもあったので、それについても、調べた内容があっているかの確認も兼ねて報告書に記す。


今後は、報告書の書き方も研究しなくては。ただ長い文を読まされるのは辛いだろうし、そもそも時間が勿体無い。


とりあえず一回目の手紙での報告を終え、返事待ちの間、新しい実験に取り組むことにした。


これは、試しでやって見ようと思ったことだ。


魔力を透明な液体に流し込む際、黒い液体を作るのに、人によってムラができていた。薄くなったら、もう一度はじめからやり直した方がよい、と言われたが、それじゃ、薄いやつ、もったいなくないか?


魔法とかで、前の状態に戻すか、取り除けたらいいと思わない?


どうやら、前の状態に戻す魔法は、使える人が限られるみたい。じゃあ、取り除くのは?


私の魔力でできるのかわからないけれど、やってみることにした。

除去魔法は、生活魔法の一部だし、できるはず。一番簡単な除去魔法を本を見ながらやってみると、出来た!


透明な液体に変わった。


なんだ。こんな簡単なことなら、なんで最初からそうしないのだろう。勿体ないじゃないか。液体だって、いくらするのかわからないけれど、タダじゃないのに。


意外にも、やりたいことの一つ目がすんなり解決したので、次のやりたいことに移る。


次は、透明な液体の解明だ。

これは何なのだろう。ジェルネイルみたいに使えるのかな。硬化するのかな。

これは種類があるのかな。本には材料としっかりとした作り方が書いてあるので、私にでもつくることができるのだろうか。


薬草の名前と、抽出方法などが書いてある。とりあえず瓶1本分の作成を目標に、実験は始まった。


結論から言うと、作ることは出来なかった。そもそも、薬草が手に入らない。

育成が難しい上に、使えるようになるまで、時間がかかる。


今植えたとして、使えるようになるには、3年ほどかかる。その頃にはもう見習い試験は終わっている。それでは遅いのだ。


と言うのに、好奇心には勝てず、結局、家の庭の隅の方に植えさせて貰った。

どれだけ育つかはわからないが、育った頃にリベンジしたら良い。


気を取り直して、硬化するかどうか試してみた。太陽の光を当てると少し強度が増した気がする。

本当にジェルネイルのように使えるみたいだ。


これも、除去魔法で取れるのだろうか。

手順を思い出し、やってみると、綺麗に取れた。

爪が割れたりもせずに、ペラリと取れた。前世のジェルネイルより使いやすいかも。オフが楽だなあ。


あとは、除去魔法を使わなくても、オフができるような一式を作ろう。前世の記憶を頼りに。魔力が枯渇したら、使えないし。そういう状況があるかもしれない。手札は多い方が良い。


あと、やりたいことはズバリ、魔法陣の研究である。魔法陣の色と、あと絵柄。紋様で植物とか、動物の絵柄はあったものの、種類は限られていた。


少し嫌な予感がしているので、それを打ち消したいのだけれど、周りの人を巻き込んでしまうのも怖くて、とりあえず危なくないようにはするつもり。


色は今、黒しかない理由も、もしかしたらそうなのでは?と思っているだけなので、確証がほしい。魔力量をはかる機械を多分もう借りることは叶わないので、ただの予想でしかないのだが。


とりあえず、やってみるのが一番だ。

ウジウジ悩んでいるよりは、よっぽど良い。


先程綺麗にした液体にまた魔力を流し込んで、黒にする。それから、今度は時間をかけて、黒から濃紺に変えた。


もう一つの瓶の液体は、真っ黒。


この二つの瓶の中の液体を使って魔法陣を描いていく。自分なりのオリジナルの魔法陣。


危険がないように、とは言ったものの、研究が楽しすぎて、その危険とやらは頭からすっかり抜け落ちていた。










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