第5話 研究の楽しさと誤解
研究に行き詰まることがあったり、疑問に思うことがあれば、父に頼んで図書館に足を運ぶ。
私が常々不思議だったのは、属性そのものの色と魔力を反映した色が別であることだ。前に闇の魔力を見せてもらう機会があった時、紫色の光を見たのだが、魔法陣に使うカラーを作るときは、少し渋めの茶色だった。
あれが何故なのかわからず、今日は図書館を訪れている。
属性の色が見えるのはどうやら家では私だけで、私自身も半信半疑だ。
自分の見たものが、現実である証拠は自分にしかないのが、なにより私が信じられない。
前世の記憶だってそう。今の自分が、思い込んでいるだけかもしれない。
図書館に着いたら、紋様の本を手に取る。眺めるだけでも癒される。
続いて、魔力に関する本をみる。種類は多く、一冊ずつ手に取り中を見ていく。
高いところにある本は、父に頼んで取ってもらう。父は図書館にずっといる人のように、本について、とても詳しく、同じ内容ならこちらの方が詳しい、こちらの方が、読み易い、など、教えてくれる。
とても今更だが、父はすごい人だ。
さて、目当ての本が、中々見当たらず、諦めようとしていた。
父に若い男の人が話しかけていて、お知り合いかと、様子を伺っていると、不意に声を掛けられた。
どうやら、この方が、私が探している本を見つけてくださるようだ。
私が話し始めると、機嫌良く頷いていたが、だんだん表情がおかしくなってきて、父と私を見比べている。
「残念だけど、その本はここにはないよ。」
薄々気づいていたが、やっぱりはっきり言われると落ち込む。
私がガッカリしていると、少しドヤ顔で、その方は親切な申し出をして下さった。
なんと、ご自分の本を貸していただけるそうだ。
「今から取ってくるので、こちらで待っていて下さい。」
そう言って颯爽と、図書館を出て行ってしまった。
そういえば、名前すら聞いていない。
王宮で働かれている方なのかな。
父を見ると、苦笑いをされていた。
「あれが宮廷魔術師の一番偉い人だよ。」
私は固まった。凄く若く見えない?
あっという間に帰ってきたと思ったら、何冊か抱えていて、全て貸してくださると言う。
「返すのはいつでも構わないのだけど、実験結果を僕にも教えてくれないか?」
キラキラした目でそんなことを偉い方に言われたら、断れない。
「はい。」と言うしかなかった。
そんな日々を送っていた私は6歳になった。
5歳で前世の記憶を取り戻してからは、随分おかしな子どもだったと思う。今も、私は美咲で、ルイの元の性格はなりを潜めている。
ルイはどこにいるのか。
もしかして突然現れた私の意識が怖すぎるのか。大丈夫だよ。可愛い男の子に悪さなんてしないよ。
意識の中のどこかにいるのなら、手を取りあって仲良くしようよ。呼びかけても返答はない。
彼が自主的に出てきてくれるのを待つばかりだ。
私は体力をつけることを第二の目標とした。魔術師に男性が多い理由の一つは、体力だと思うから。
男性が女性より魔力が多いとかそういう話は聞いたことがなく、それ以外に必要なことと言えば、体力かなぁ、という結論になった。
ちゃんと父に尋ねたら合っていた。
私がまず目指す魔術師見習いは、体力がある人が第一条件だ。
とはいえ、私はまだ幼く、試験まであと一年しかないからやれることは限られる。
前世の記憶を必死に辿る。高校生の部活で毎日走っていた事をかろうじて思い出し、庭を何周か走ってみた。
さすが6歳児。まるで羽でも生えたように体が軽い。
いつまでもこの状態が続くかと思われたが、まだ子供なため、持久力はないようだ。
毎日、無理のない範囲で走ることにした。最初の頃は、筋肉痛との戦いだったが、慣れてくると、段々長い距離を長い時間走れるようになった。
それと比例して、ご飯もたくさん食べられるようになった。今まで、よくそんな量で足りたな、と思われるぐらい。
前世で慣れ親しんだ和食とは違い、フルコースの洋食。初めは油が多く苦手だったのだが、慣れてくると、美味しくて、たくさん食べられるようになった。
前世では、マナーが怖くて、あまり食べに行かなかったが、行っておけばよかったと思う。
ルイもマナーは苦手だったらしく、目の前にセシルと言うお手本がいなければ、匙を投げていた。
セシルはどう言うわけか、ルイと距離がやたら近く、ドキドキする。
前世は兄弟がいなかったため、兄弟としての今の距離は適切なのかさっぱりわからない。
セシルとマシューの距離は普通に見える。マシューとルイも仲は良いのだが、ドキドキはしない。
なのに、セシルとはドキドキするのだ。
念のため、言っておくが、前世の私は小児性愛者ではない。26歳だった私が、たかだか10歳の子供にドキドキさせられるなど、屈辱もいいところだ。
もしかしたら、ルイの気持ちに引き寄せられているのだろうか?
ルイが否定しないのをいいことにこの後、少々考えすぎてしまったのだった。
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