火野 勇輝①

「郡山市立安積中学校で投手してました。如月 有紗です。よろしくお願いします」

「如月さんだね。僕が主将の氷川 始。よろしくね」

 これからお世話になる氷川さんと互いに、簡単な自己紹介を済ませた。とても温厚で、聡明。これが氷川さんの第一印象だった。昔私にホイホイ寄って来たアホでバカな男子とは違い、あまりにも人格ができている。おまけに顔もジョニーズの奴らよりも爽やかすぎだ。こんな人がなぜここに、新設野球部にいるのだろうか。

 ……今は考えるのはよそう。まだ新しいとは言え、特待生としてここで野球をしに来たんだ。今日のミーティングを聞いて、いち早くもここの先輩方から色々と教わらなきゃいけない。

「とりあえず、荷物まとめたら一緒に部室行こうか」

「分かりました。あっでも待ってください。一人紹介したい奴いるんですけど」

 私は、窓の端にいる眼鏡の男の子を呼んだ。その子が私の声に気づくと、新しくできたであろうクラスメイトと別れの挨拶を済ませ、教室の出入り口まで来てくれた。


「……創高のや野球部、マ、マネージャー希望です……! 佐渡 遥です……! よろしく、お願いします!」

 途切れ途切れのその声は、とても甲高く、女の子のようだった。佐渡はこの先声変わりしないのだろうか。 

「佐渡君ね。よろしく! 如月さんの友達?」

「えっと、そのお……!」

「ウチの彼氏です。中1からの付き合い」

「………んんんんん?????????」 





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 あくまで俺ちゃん個人の考えだが、友達作りにもっとも最適なのは『ハンドシェイク』だと思う。異論は認めん。いや、嘘。他の方法もあるわ。やっぱ認める。

 でもねでもね。この世の誰だってハンドシェイクに憧れたはずだ。シュートが入れば、スパイク決めれば、ホームラン決めれば、喜びを誰かに共有したくなる。そこでチームメイトと手を手を繋ぎ合わせて、シェイク♪ シェイク♪ シェイク♪絆の誓いを交わしたならば。初対面のやつもブラザーよ。前見たドラマもこんな感じのやってたし、俺もやってみたかったんだよねぇ〜

さて、氷川くんの反応は?

「おっ。 おう? うん。よろしく」

 あれ。あれれれれ。おかしいぞ。 

 これは完璧に引かれた? 話の流れ的にミスった感じ?

変だな。ドラマ見た感じだとのってくれる筈なんだが、

これって人によって向き不向きある感じなのか。そうなるとこれは完璧に滑ったかもしれない。俺おもっくそ戦犯かましてんじゃねえか!!!  


「火野だっけ? ハンドシェイクできるんだな。かっ、かっこいいと思うぞ」

「そう!? あはは!俺ちゃんこの日の為に練習してきたんよ!」

「そうか! そうか!!! あははははは! 一応ポジション聞くけど、どの辺守ってんの? ちなみに俺は捕手だけど」

「投手だよ投手。中学から投手一筋で頑張ってきたんだ〜」

「そうか!!!投手ってかっこいいよな!」

「これはこれはあざまる水産! あははははは!」


















き、気まず! 圧倒的に気まず! 本当にやらかしたどしよこれ本当どしよ。





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 いきなりなんなんだこいつ!? 所々話すんの下手くそか?

特待生?ほんとに特待生か? 見た目も口調もチャラチャラしてるし。

陽気な感じで俺を和ませようとしたらなんか滑ったし。

 如何にも野球に打ち込む人間には見えねえ! 部室に先に来て掃除してたのはめっちゃ好感度持てたけど! どうすんだ?他の奴来るまでこのままっつう訳にはいかねえぞ! 




 そこへ、校長先生が口を開いた。

「勇輝君ってさ、アレなの?チャラチャラしてる癖に友達作り苦手なタイプ?」

「あっ校長先生。こんにちわ」

「そうなんす。やっぱこう、同性の子と初めて話すのって結構ハードル上がるんで」

 滑りに滑ってしまった火野を慰めるかのように、校長は火野の背中を優しくさすってくれた。ん?ちょっと待て。校長? えっ校長? なんで校長?


「「なんでしれっと校長いんの!!!?」」

俺と火野は口を合わせて叫んだ。




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「あはは。びっくりしたでしょう。アニメやドラマみたいににゅるっと会話に入ってく遊び。ハマってるんだ」

「こんなん心臓に悪いですよ! びっくりしたぁ!まじで」

 俺の言いたかったことを、氷川が代弁してくれた。全くもってその通り。

「申し訳ないね二人とも。さっきローマン君がね、今年は中々の強者が来たって言ってたもんだからさ。つい仕事投げ出して来ちゃった」

 ん? ほんとにこの人校長先生だよね? 軽い感じで仕事放棄していいの?

「んでさ二人共。一部始終みてたんだけどさ。なんつうか地味! 普通に自己紹介とかインパクトないんだけど。あと滑ったし。これが小説だったら読者もなんて顔していいかわからないよ!」

「急に人の話に文句つけられても…… あと火野のはマジで事故ですよ」

「アラレちゃん~事故って言い方はひどいんじゃないか~!」

「アラレじゃなくて アラタね。新。それだと別もんになっちゃうから。急に馴れ馴れしいなおい」

 氷川の睨んだ目の視線は、乱入してきた校長に変えてきた。目が怖いよ怖いよ。


「そういえばさ、火野君だっけ? 君ほんとに特待生?」

 そうだった。氷川が急に来てびっくりしたから、特待生っていうことになってるの忘れてた。

「特待生リストの中に、君の名前入ってないんだけど」

 でも即ばれましたね。はい。

「えっ火野。なんとなく察したけど、一般生徒なの」

「だって~…… ごく普通の俺ちゃんがここにいると、少しめんどくさいことになりそうだから~」

「そうか。でも咎めるくらいの噓じゃないし。秒でばれたからいいよ」

 と言いつつも微妙な顔になってしまった校長と氷川。なんかぐだっちゃったなと申し訳ないなと思い、軽くおじきした。すると校長が何かに気づいた。

「ん? 君。ちょっと掌見せて」

 一体俺の手になんかついてるのか? それともフェチ? 疑問に思いつつも、俺の掌を広げた。

「ほうほう。なるほど。ほう ほ~~~う!!! 火野君! ほんとに投手で間違いないよね!」

「ほんまほんま! これほんま!」

「ならばよし! 火野君と氷川君に聞くけどさ、本読んでる時って展開早い方が読みやすいよね」

「お、俺はテンポよく話が進んでくれたらワクワクしますけど」

「俺ちゃんも、話がのらりくらりしてんのはつまんないしね」

「わかった。じゃあ早速二人はジャージに着替えて、グラウンドに来て」

 校長先生は俺が磨きに磨いたボールをまとめ、まだ新品同然であろうバットやヘルメットを俺たちの目の前に用意された。

「これから先輩方と部活のミーティングが始まるんじゃ?」

「それは後から参加しなよ。 ……これから火野君の入団テストをはじめる。スポ根物と言ったらこうでなくちゃ!」

 その時の校長の顔は、隠しきれない好奇心が溢れていた。無邪気な少年のようだった。

 



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Fire blizzard ー創高野球部、1からのスタートー アホ田丸 @FFF_Val

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